「……え?」
「えって何?」キングが問い返した。
 何と言われても困る。
「それだけ? 私に怪我が無くて良かった、それだけ?」
「それだけってどういう意味……俺にとってはそれが一番――」
 急に、キングは言葉を区切った。それが意味することも、名前は知っている筈なのに、少しも考え浮かばなかった。
「いや、その、普通、気味悪がったりとかするじゃん?」
「何、気持ち悪がられたかったの?」
 再び、呆れたような顔でキングが言う。「気持ち悪がるわけないだろ、常識的に考えて」
「そりゃ、一日五百個も卵孵してる名前氏はたまにきもいけど」
「ひでえ……」
「多少不死身でも、名前氏には変わりないんだろ。だったらそれで良いよ」

 名前がジッと見詰めていると、キングは座り心地が悪そうに、尻をもぞもぞと動かした。
「怪我はしてないんでしょ、取り敢えず今は」
「さっき私のマッパ見たじゃん」
「見てない」
「いやいや、嘘はいくない」
「見てない」
 じゃあその鼻血止めろよと言うと、キングは勢いよく鼻の下に手をやった。名前の嘘だと解ると、途端に怒り出す。心なしか顔が赤い。名前が腹を抱えて笑い出すと、やがてキングも小さく笑った。



「お、おお、はよ」
「おはよう」
 キングと名前はお互いオタクで、ゲーマーで、そして引き籠りだ。それが偶然玄関先で顔を合わせるとは。色々ぶっちゃけちゃったんだったと思い出し、名前は幸せな気分に浸りつつも、動揺を隠せない。昨夜の彼の、真摯な態度を思い出してしまうと、何故だか名前は心臓が早くなるのだ。ちくしょうどういうことなの。
「名前氏が外出とか珍しいね」
「お互い様でしょ」
「俺はドキドキシスターズの予約」
「私はドラクエ7の受け取り」
「どこ?」
「隣の……N市のメイト」
「ふうん」キングが言った。「一緒に行っていい?」
 名前はもちろん頷いた。二人でアニメイトに足を向けるのは、さして珍しいことじゃない。キングが部屋に鍵を掛けている間、今日も良い天気だなあと外を見遣った。

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