いつだかに貰った試供品だが、あって良かった。お湯を沸かして、注ぐだけ。賞味期限は見なかった。まあ所詮お茶だし、飲めないことはないだろう。
 キングの前に座ると、彼がびくりと身を揺らしたのが解った。苦笑しながらも名前は湯呑を彼の前に置き、重い口を開いた。
「えー、と、どう話せばいいのか解らないんだけどさ、聞きたいことある?」
「……怪我は」
「治った。あー……そっから話さないといけないのか」
 参ったなと宙を見上げる。
「どうして怪我したの」
「始まりは二十年くらい前なんだけ……うん?」
「名前氏はどうして怪我したの」
 キングの静かな声に、今度は名前が身を震わせた。何だこれ。何この、これからお説教が始まりますよ臭。目の前に居る男は一体誰だろう。名前は無意識のうちに、彼から目を背ける。確かに彼なら、地上最強の男だと言われても差し支えがないな、そう思いながら。
「J市で……」
「うん」
「災害避難所に居なくちゃならなくて」
「シェルターね。で?」
「そこに怪人が入ってきて」
「シェルターの壁を破って?」
「そう」
 頷くと、キングは少しだけ普段のビビリの表情を覗かせた。しかし、それも束の間だ。
「で」キングが言った。「それが名前氏と何の関係があるの」

 名前は思わず顔を上げ、真っ向からキングを見てしまった。何これこわい。
「いや、だって、あそこ五千人避難者が居て、でも怪人が入ってきて、だから……」
「だからそれに立ち向かったの? 一人で?」
 一人じゃない、と名前は言ったが、その言葉は尻すぼみだ。
 やがて、キングは長い溜息を吐き出した。

「さっき名前氏が入ってきた時、凄い怪我してるんじゃないかって思って死にそうになった」
「その割には随分と心臓の鼓動が激しかったね」
「揚げ足取らないでよ」キングがぴしゃりと言う。「本気で心配したんだよ、俺は」
「血が着いてて気持ち悪かったんだろうけど、もう少し説明してくれても良かったんじゃないの」
「……ごめん」
 足先がむずむずするのは、私が正座してるからか? そうなのか? 絶交される絶交されるの一点張りな今の名前には、充分な判断力が備わっていなかった。キングが再び口を開いた。
「それで」
「うん」
「名前氏、本当に怪我は大丈夫なの」
「……うん」
 名前が頷く。その時になってやっと、キングが表情を緩めた。安心したとそう言いたげな顔で。微かに笑った彼から、名前は視線を外した。何故かは解らないが、頬へ血液が集中するのが感じられた。

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