シェルターに閉じ込められた五千人が見守る中、海人族はその懇願を一笑に付した。降参などしてもしなくても同じだ、何故なら自分が殺すからだと。
 此処に来る前名前が会った海人族は、逆らう気のない人間は家畜にすると言っていた。しかし、今壁を破って侵入してきたあの海人族は、もはやその気がないらしい。同族が何人か死んだのかもしれない。
 どうするかと見ていると、先の青年を庇うようにサイボーグの男が走り出た。それからもう二人そこに加わる。どうやら四人ともヒーローらしい。何だこれ、凄い出て行きにくい。

「――私も援護します」
「あ、あんたもヒーローか?」
 便乗して進み出れば、オールバックのヒーローが問い掛ける。その目には期待が四分の一、不安が四分の一だ。残り半分は海人族への絶望から成っている気がする。
「ハイ」名前はしれっと嘘をついた。
 十日ほど前に怪人に向き合った時言われたことを、名前はちゃんと覚えていた。怪人を倒すのはヒーローの仕事。それなら今は嘘でもヒーローの振りをしなくては。まさかこんな危機的状況の中、詐称罪なんて問われないだろう。
「本当か?」と疑わしげに尋ねたのは、隣に立つ白いスーツの男だった。あれ、これこの間の人じゃね。
 名前が頷けば、白スーツはますます訝しげに目を細める。
「ヒーローネームは何だ」
「新人なんでまだ決まってないんです」
 “ヒーローネーム”が何を指しているのかは解らないが、名前はまたも大嘘をついた。どちらにしろ、もうお喋りをしている余裕はない。白いスーツの男は名前の持つ拳銃に目を遣り、やがて海人族へと向き直る。名前も改めて海人族を見た。
 身の丈二メートルはあろうかという海人族は、確かに名前達とは違う、異質な存在だった。立ち塞がるように彼の前に出た名前達を不思議そうに見ているのは、「ヒーロー」が何なのか解らないからだろう。しかし、五人が「侵略を邪魔する敵」だということは解るらしい。海人族は笑みを漏らした。


 緊張が――少なくとも、名前達五人の間では緊張が走っていた。それを打ち破ったのは、サイボーグのヒーローだった。ウオオと雄叫びを上げ、白スーツの制止の声も聞かずに海人族へ向かって行ったのだ。
 途端に、悲鳴が上がり始める。
 サイボーグの体に、海人族の腕が易々と貫通していた。羽虫を追い払うような動きで、サイボーグが投げ飛ばされる。
「ジェットナイスガイが殺られた……」
「騒ぐな。アレはサイボーグだ。死んだとは限らん」
 ジェットナイスガイがどうなったのか、それすら名前達には解らなかった。海人族から目が離せなかったからだ。少しでも目を逸らせば、殺される。そんな悪寒が名前達の身を包みこんでいる。

「奴は先走ったからああなったんだ」白いスーツの男が言った。「俺が合図したら一斉に飛び込め」
 一、二の――。


 三と男が言い終わるまでに、もう決着はついていると言っても良かった。白スーツの両隣に居た男達は殴り飛ばされた。名前も一度は避けたが、予想以上に相手のリーチが長く、すぐに後方へ吹き飛ばされる。その間に四発ほど撃ち込んだが、効いているようには感じられなかった。シェルターの壁に叩き付けられた名前は、折れた肋骨が肺に突き刺さったことと、後頭部を強かに打ち付けたこと、それから白スーツまでもが殴り飛ばされ気絶したことを知った。
 後に残るのは、五千人の市民。
 霞む視界で、名前は新たなヒーローが現れるのを目撃した。

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