働いたら負けだと思ってる

 オタクでゲーマーで引き籠り。そんな名前には、親の遺産などというものは当然なかった。もっとも、ニートだからと見捨てられたわけでは断じてない。元から親が居ないのだ。育ての親はともかく、生みの親の顔など覚えていない。
 そして当然だが、たかだか自給780円のアルバイトで生活していける筈もない。そこで、名前はコンビニのレジ打ちの他に、短期でバイトを請け負うことがあった。
 用心棒とか、ボディーガードとか。

 富豪ゼニールは、その身辺をいつも護衛で固めている。物騒な世の中だ、気持ちは解る。そして、名前は時々彼の世話になっていた。いや、名前が世話をしているのか? ともかくも名前とゼニールは顔馴染みだった。護衛の前任者が急に辞職してしまった今、フリーター生活をしている名前に声が掛かるのは、さほど不思議な事ではない。
 名前は実際、何度かは彼の役に立っていた。体内時計が秒刻みで正確な名前は、時々音声で答える時計になったし、一度か二度は文字通り身を挺して危機を救ってやったこともある。また、身代わりにちょうど良い名前のことをゼニールは気に入っているようだし、名前の方もたんまりと給金をくれるゼニールのことは嫌いではない。髪型を変えるべきじゃないか、とは思っている。口には出さないが。


「名前ちゃん今何時?」
「午後五時四十七分を二十秒ちょい回ったとこですかね」
 名前が答えると、ゼニールは満足げに頷いた。
「本当に名前ちゃんは頼りになるね。前にも言ったと思うけど、ワシの所にずっと居る気はないのかね」
「ははは」
 名前が専属のボディーガードとして雇われないのは、この仕事自体はあまり好きではないからだ。ゲームの中なら別だが、誰が好き好んで殺したり殺されたりしなければならないのだ。
 ただ、金が無い。金は欲しい。
 正直なところ、ゼニールの所で一日働いただけで、レジ打ち一ヶ月分の給料くらいはゆうに稼げる。何だかんだで名前がフリーターを続けている理由はそこにあった。働きたくないでござる。

 もっとこう、楽してお金が手に入る仕事はないだろうか。ただ、名前のように学力も何もないような、そんな人間を雇ってくれる職は限られている。名前の頭に浮かぶのは、頭にヤの付くような危ない職業だけだった。いや、この身辺警護だって危ないっちゃ危ないが。少なくとも此方は正当防衛なわけだし。それにゼニールの人となりも知っているし。その違いは大きいのだ。

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