この間、例のウンコビルが爆発したと聞いた時から嫌な予感はしていたのだ。今日からバイト先に泊まり込みだ。解せない。もっとも、名前が悶々と考えていたところで仕方がないのだが。手早く着替えると、昨日の内にまとめておいた荷物を手にし、家を出た。そうして三メートルと離れていない隣の家に足を向ける。
 こんな時間に――まだ日が昇ったばかりのこの時間に、何の前置きもなく家を訪ねるというのも気が引けたが、まあキングだしなと無理やり納得させた。突然決まったアルバイトは、一週間か、一ヶ月か、それとも半年とも解らない。何となく、キングの顔を見ておきたかった。
 心持ち控えめにインターフォンを鳴らす。少し待って出てこなかったら、書いておいた手紙を入れておこうと思っていた。しかし、驚いたことにキングは名前の前に顔を出した。
「……名前氏?」
「おはよー」

 訝しげな顔をしているキングに向かって、名前はにへらと笑った。
「ごめんね、こんな朝っぱらから。起こしちゃった? ……ってわけではなさげだね」
「徹夜でゲームしてたから……どうしたの? しかもスーツとか……」
 じろじろ見られていたような気がした原因はそれか。キングはスーツ萌えだったのかもしれない。今まで知らなかったが、別に彼のことを熟知しているわけではないので当然だ。私でよければいつだって着てやんよ、と脳内で呟く。流石に口に出すのは憚られた。
「実は、急に住み込みでバイトが決まってさ。冷蔵庫の中まだ全然整理してないんだけど、もし良かったら空にしておいてくんない?」
 例の侍師弟の名残は、まだ存分に残っている。
「いや、それは良いけど……何? そんな長いバイトなの?」
「後任が見付かるまでだってさ。いつになるか解んないの。悪いんだけどよろしくね。あ、テレビ使っていいよ」
「不用心すぎないか……」
 はいこれ鍵ね、とキングに渡す。彼は受け取りはしたが、実の所まだ納得できてないようだった。目が半分寝ている。まあ、徹夜明けだと言っていたしな。

 よろしくねーと手を振って別れると、キングも小さく振り返してくれた。



「前の……何でしたっけ? 関節のパニック? とかいう人はどうしたんですか? けっこう強かったと思うんですけど」
「パニックって……ソニックくんのことかな? 何故だか突然辞めてしまってね」
 はぁ、と名前は頷いた。まだ任期は残っていたのにと、雇い主はぶつぶつ言っている。
 キングが言っていたのは本当だった。別に疑っていたわけではないのだが、よく知った名前だった為に、つい「そんなまさか」と思っていたのだ。ウンコビルのウンコはなくなっていた。ただのウンコ……じゃない、ただのビルになっていた。

「まあまたよろしく頼むよ、名前ちゃん」
 ゼニールが笑い、名前はお任せ下さいと頭を下げた。

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