「えっ。何これ……えっ」
「スーパーくぱぁタイムです」
「女の子がくぱぁとか言うなよ」
 キングはそう言ったが、その目は目の前の皿に留められている。こんもりと盛られたケチャップライス(綺麗に混ざらなかったため、マーブル状になっている)、その上に見事なオムレツが乗っている。オムレツが、乗っている。

 見事なオムレツだった。柔らかな黄色をしたそれは、皿に触わるだけでふるふると揺れ、中の卵が半熟だということが解る。それでいてふちはぴったりと止められ、崩れることもない。それどころか見事な楕円形だ。
 名前がその黄色の楕円の上から下まで切れ目を入れると、やがてそれは自重と下にある山形のライスにより、ゆるゆると広がり始めた。少しも触らなくても、勝手に開いていく。オムレツが完全に開き切った後、たっぷりと間を空け、キングは名前を見上げた。どや顔をしている名前を。
「名前氏、コックの友達でも居るの?」
「失礼すぎる」


 これが名前さんの本気なのですと言うと、キングは疑わしげな眼差しで名前を見詰めた。金糸卵もまともに作れない人が?と、その目は言っている。
「ここがニコ動だったらすげえコメントで埋め尽くされてると思うんだけど」
「すごいとは思うけど……」
「まあいいや。先食べててよ。私今から自分の作るから」
 ケチャップを混ぜ込んだご飯を皿へと盛り付けながらそう言うと、キングは立ち上がり、「見てて良い?」と尋ねた。別にいちいち聞かずとも良いのにとは思いつつ、そういう所が彼の良い所なのだろうなと名前は思う。何だったか、心の間にはいつも垣根を作っておけだとか何とか。

 卵を二つお椀へと割り入れ(もちろん片手では無理だった)、適当に五、六回混ぜた後、そのままフライパンへと流し込む。じゅっと小気味のいい音がして、黄色の縁がうっすらと白くなった。ぐるぐると大きく二度掻き混ぜ、少しだけ放置。それから卵の端を畳みこむようにしながら片側に寄せ、フライパンの柄の部分をとんとんと叩いた。フライパンを叩くのと同じリズムで、卵はくるくると丸まっていく。
「ねっ、簡単でしょう」
「卵焼きの方が簡単だと思うんだけど」
「細かいことは気にすんなし」
 再びのくぱぁタイムの後、名前とキングは向かい合って食卓に着いた。キングのオムライスは少し冷めていて、取り替えようかと言ったが彼は丁寧に断った。それから二人揃って手を合わせる。


 ニコニコ動画で美味しそうだったから作ってみたのだと暴露すると、キングは納得したようなそうでないような、複雑そうな顔で名前を見ていた。
 名前は確かに料理が苦手だが、それはやり方が少しも解らないからだ。しかし動画として目にしていれば、話は別だ。目で見た映像を再現してみれば良いだけのこと。名前にはそれができただけだ。本気になれば、超一流の料理人の手際ですら真似できる、かもしれない。
 ただそうしないのは、名前の食に対する興味が薄いからだ。名前の得意料理にオムレツ、オムライスが加わったが、それは言うなれば先のラザニアに対する意趣返しだった。そして作ってみて解ったが、自分にはインスタント麺の方が性に合っている。
 卵にはやはり、味が付いていなかった。

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