「ウワアまた負けた……」
 テレビ画面に大きく映るKOの文字。隣に座るキングは何も言わなかったが、どこか雰囲気が得意げだ。理由もなくいらっとして、その無駄に大きな背中をぺしりと蹴ると、はははと笑われた。年上の余裕なのだろうか。
「あれだよね、名前氏はこういうアクション系が苦手だよね」
「まあね」
「アクションゲームが苦手っぽいっていうか、まあ元からそれほど好きじゃないんだろうけど、特にこういう対戦型の格ゲーは駄目っぽい。横に流れてくのは得意だよね。指が追い付いてないとかじゃないみたいだけど」
 キングに言われて、何となく納得した。
「こう……これくらいならまだ行けるんじゃね、って思っちゃうんだよね。でも数値見てる暇ないし」
「ヒットポイントのこと?」
「うん」
「その辺は感覚で慣れるしかないかな。攻防の数値は変わらないんだから」
 そういうもんだろうか、と、名前は未だ勝敗を示し続ける画面を眺めた。
「無限にコンティニューする奴とかないの?」
「全員使い出したら勝敗つかないだろ」
「それもそうか……」

「キング氏、もう一回やろ! リベンジマッチ」
「それもう八回目だよね」
 苦笑しながらの言葉だが、それには勝者としての優越感が滲んでいるような気がしてならない。もっとも、名前の僻みだろうが。
「別にやってもいいけど、名前氏これからバイトでしょ」
「諦めたらそこで試合終了ですよ」
 そう呟くと、キングは苦笑した。
 名前は週に三日、近くのコンビニでレジ打ちをしている。ぎりぎりニートではない。でももうやだ、引き籠りたい。元から名前はインドアな人間で、できることならずっと家の中に引き籠っていたかった。ゲームだけをして生きていきたい。しかし、何をするにも金がいるのだ。というか、ゲームをするには金がいるのだ。
 ゲームの中なら簡単にカンストさせられるのに。
「私もヒーローしようかな」
「精神的に追い詰めるのやめてくんない?」

 結局、キングはリベンジマッチを受けてくれた。一分で負けた。ちょっと泣きそうになった。

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