あえて言おう、オタクであると

「あ、また負けた」
「ふはは」
 にやにやと笑っていると、キングは「仕方ないな」とでも言うような顔をして、ふうと溜息を吐き出してみせた。年はさほど違わない筈なのだが、その様は妙に貫禄がある。なんか悔しい、私が勝ったのに。いや、でも、勝ちは勝ちだ。
 回覧板を届けに来た筈だったのに、いつの間にかポケモンバトルをしていた。今のところ、BW2においては十八戦十六勝一敗一分けである。
「あれなの、名前氏は……乱数調整? とかしてんの」
「してない。何千もの卵を自力で孵してこそのプロポケモントレーナーだと思っている」
「ドMだなあ」
 格ゲーでは名前はキングに勝てない。しかし育成ゲーならば圧倒的に名前の方が強かった。向き不向きというか、得手不得手というか、単に好みの問題というか。
 名前とキングはどちらも重度のオタクであり、ゲーマーだったが、ゲームの好みに関しては、実のところそれほど被っていない。キングは攻略ゲーや、格ゲー、しいて挙げるならギャルゲーが好きで、名前の方は育成ゲーや乙女ゲーが好きだった。それでもこの二人が気が合うのは、ゲームに対する入れ込みようが似ているからだろう。
 周回プレイは基本中の基本だ。
「乱数はしたい人がしたらいいよ。ただ、この果てしない孵化作業を経験してない人はもったいないなって思うけど」
「ポケモンって何のゲームだっけ? 遺伝子操作ゲー?」
「近い」

 その時、床がぐらりと揺れた。
 気のせいかと思ったが、キングの心臓が凄まじい音を立てて動き始めたところから鑑みるに、どうやら勘違いではないらしい。電気の紐も揺れていた。本揺れがくるかと思ったが、予想したような衝撃は訪れなかった。耐震工事万歳である。
「地震っていうか、じならしだったね。すばやさ一段階下がっちゃうね」
「これだから廃人は……」
「テレビつけて良い?」
 キングは頷いた。頷いたのだと思うのだが、単に震えが収まっていないだけかもしれない。まあ、彼は勝手にテレビを点けられて怒るような、心の狭い男ではないのだが。

 キングは、極度のビビリだった。
 S級ヒーローをやっている、最強の男とまで呼ばれる男なのに。しかしそれもその筈で、彼のそういった肩書は全て嘘っぱちなのだ。キング曰く、勝手に周りが持ち上げているだけらしい。いつしかヒーローになっていて、いつしか最強の男になっていた。否定しないまま今日に至るというわけだ。
 名前は密かに、彼がその内ひどい目に遭ってしまうんじゃないかと危惧していた。しかし、彼自身もヒーローなのに何も出来ない自分に罪悪感を感じているらしく、結局何の助言もしていない。名前がすることといえば、一緒にゲームをしたり、一緒に何の為にもならないような会話をするぐらいだ。

 テレビでは、現れた巨人のような怪人が、つい先ほど何らかの事情によって倒れたのだと報道していた。足元に居たヒーローたちのおかげだろうということだ。しかし巨人は倒されたものの、その影響でB市が消滅したらしい。御愁傷様である。

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