memo simple is the best! ::メンドー主とチャンピオン、カロス編 その男を選んだのは、全くの偶然だった。背格好がちょうど良かったことと、何より男の持つ洗練された雰囲気に惹かれたのだ。背中に衝撃を感じたのだろう、男が怪訝な表情で振り返る。カルネは男を見上げながら、にっこりと笑った。 「お兄さん、あたしと一緒に逃げてくださらない?」 寡黙な男だった。しかし愛想が悪いわけではなく、単純にカロスの言葉に慣れていないだけらしい。イッシュの言葉を交え、身振り手振りと共に応えてくれる男に、カルネは強く好感を抱いた。何より――彼は、私を映画俳優だと知らないらしい。 ツアー客のワタル、彼はそう名乗った。 ともにミアレガレットを食べながら、ミアレの街を歩く。評判のミアレガレットも、同じ年頃の異性と街を歩くのも、仕事のことをすっかり忘れるのも、カルネにとって何もかもが初めての経験だった。俳優業は、楽しい。それは確かだ。しかしながら、こうして“普通の女の子”になりたいと願う気持ちがあるのも確かだった。 「ね、ワタル」ガレットに齧り付こうとしていたワタルは、カルネの方を見る。こうして隣を歩いていると、さほど身長が変わらないことに気付く。彼の肩に乗るメタモンがそろりそろりと手を伸ばし、ガレットを奪い取ったが、ワタルはちらりとメタモンを見遣るだけで咎めたりはしなかった。「ミアレの休日って映画、知ってる?」 ワタルは首を横に振る――カルネはにっこりした。 back ×
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