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::土男、五年前の某日

 ついに、この日が来てしまった。
 ○は頭をガシガシと掻き、やがて微かに溜息を漏らした。この日、○はついに五連敗をしてしまった。相手は、コーストカロスから来た若い男。互いが好んで使うタイプの相性が悪かったし、顔を合わせる度に彼は成長していた。こちらもムキになるほどに、彼の成長は凄まじかった。いつかはこうなるかもしれないと、漠然とした予兆は感じていた。

 引き継ぎは、また後日行われることに決まった。最後のバトルの後、○はすぐこの場所に来た。チャンピオンロードの半ば、過去の遺跡群が連なる拓けた土地。いつしか日は落ち、星が輝き始めていた。空いてしまった四天王の座に収まるべくカロスへ来た○にとって、馴染みの場所は此処くらいしかなかったのだ。黙って星を見上げる○の隣で、パートナーのドサイドンもまた、黙って星空を眺めていた。

 四天王を降りることもそうだが、そもそも負け続けたことが悔しかった。しかも、年下相手に。もっとも○が四天王となったのは十代半ばで、それを思えば何も不思議なことはないのだが、それでも悔しかったし、情けなかった。
 一人のトレーナーとして、男として、悔しかった。
 突然鳴り響いたホロキャスターを、反射的に取る。届いたメールは○個人に送られたものではなく、ホロキャスターのサービスである最新ニュースだった。何の気なしに、それを開く。若い女性がキャスターを務めている。


 行方不明だった百匹のトリミアンが無事に見付かったというニュースだった。何てことはない、ごくありふれた話題だ。キャスターは新人なのか、ぎこちない部分もあったが、その笑顔はとても明るく、心の底から祝福しているようだった。

 ホロキャスターを仕舞い込むと、○はゆっくりと立ち上がった。
「また一からやり直しだな、ドサイドン」
 ○がそう声を掛けると、ドサイドンは暫くじっと○を見据えていたが、やがて一声力強い雄叫びを上げた。
 

2013.11.22 (Fri) 08:44
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