memo simple is the best! ::デルタ主と66号、ベランダにて ○は生粋の煙草愛好者だった。いつ吸い出したのだったか、覚えていない。気付けば中毒になっていた。体に悪いとは解っているが、元来生に対する執着が薄いことが災いしたのだろう、控える気はさらさら無かった。非喫煙者の居る場所では吸わないようにしているので勘弁して貰いたい。 ぐっと息を吸えば、体の中にニコチンが満ちていくのが感じられる。気がする。 正直なところ、美味くも何ともない。むしろ味についてだけ考えれば不味くもあるのだ。苦いだけの代物。だのに吸わなければ落ち着かないのだから、人間の体ときたらどこか狂っている。 ヘビースモーカーの○が行き倒れの家出少年を拾ってから、どれだけになるだろうか。寒さのピークは過ぎたとはいえ、吹き荒ぶ北風は未だ○の身を震わせる。新調したコートをより一層抱き込みながら、○は一度取り込んだ煙を吐き出すべく口を開いた。息とは違う、白い煙がゆらゆらと立ち昇っていく。 いくらニコチン中毒の○とはいえ、まさか子供の面前で煙草を吸ったりはしない。それまでの○は、場所を問わず煙草に火を点けていた。おかげでどの部屋も黒ずんでいる。ロクゴーが居着いてからというもの、極力喫煙は外で行うようにしてきたし、どうしても家で吸いたくなった時には、こうしてベランダで吸うようにしていた。アウトドア用だろう折り畳み式の椅子を買ったのも、快適な喫煙生活を送る為だ。 成人男性が長々と腰掛け続けるには向かない椅子に敢えて座りながら、無心になって煙草を吸っていたのだが、ふと視線を感じる。その先に目を向ければ、窓ガラスにぺたりと張り付くようにして、ロクゴーが○を見つめていた。○の視線をどう解釈したのか、彼は○が何を言う間もなくベランダへ躍り出た。 おい、と声を掛けようとするも、○の口が言葉を発する前に「○さん、俺、へいき」だなどと言うものだから、結局言わずじまいになってしまった。まあもうそろそろ終わるつもりだったし、少しくらいなら良いか、と、火を消さない自分はクズだと思う。 ○の姿を追って衝動的に出てきたのだろう、ロクゴーは部屋着のままだった。出会った当初よりはふっくらしてきたものの、見るからに寒々しい。手招きし、そのままコートで抱きくるるようにしてやると、表情は見えなかったがひどく満足げな様子だった。尻の下でちゃちな折り畳み椅子が悲鳴を上げている。灰を落とさないように気を付けながら、やはり手間がかかっても外へ吸いに行くべきだろうかとぼんやり考えた。 back ×
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