memo simple is the best! ::涙色、蛇足 海の水が薄まり始めていた。調べたところによると、この付近にはそれなりに大きな川が流れている。鉄火マキらはその川に沿って、例の動物園に向かう予定だった。きっと、その川から淡水が流れ込んでいるのだろう。 ○が言っていた通り、海は決して良いばかりではなかった。人間の街に近い所の水はひどく臭かったし、逆に人里離れた場所はプランクトンが大量に居たりと散々だった。それに、思っていたよりも青くない。 しかしながら、鉄火マキの海への憧れは微塵も薄れなかった。赤潮に塗れ、生活排水に侵された海もまた、美しいと思った。海は広い。鉄火マキが見たのは、ごく一部に過ぎない。世界中の海を泳いだなら、それはどんなに素晴らしいだろう。 「このまま逃げ出せるんじゃね? ま、人間に見付からねえよう気遣わなきゃならねぇだろうが」 ギシギシと笑い声を漏らすドーラクに、鉄火マキは口を曲げた。そのままカイゾウが担いでいる水槽へ飛び込む。河口から先は、彼が鉄火マキを運んでくれることになっていた。 あいつが帰りたいと、言うその気持ちは痛いほどに解る。 「あたしが居なくなったら誰がイルカ連中見張ってくれんの? ドーラクあんたやってくれる?」 鉄火マキが言い返した時、先頭を歩いていた一角が振り返り、「静粛にしたまえよ!」と叫んだ。あいつの方がうるさい。ドーラクはギシギシと笑っていた。 back ×
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