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::水族館主と一角と決闘について

 今日も一角さんは「決闘だ!」と叫んでいる。今回はどうも、デビさんの猫背がその原因らしい。デビさんの方は煩わしげに手を振ってみせるだけで、相手にしていないようだ。ショーホールでは時折繰り広げられる光景だった。
「デビ! 我らには顧客を満足させる、義務があるのだ! 君の姿勢は如何ともし難い! 即刻矯正すべきではなかろうか!」
「な、なかろう」
 適当にそう答えたデビさんに、一角さんは「怠慢! デビ、それは怠慢だぞ! 決闘だ!」と叫んでいる。

 一角さんは、何というか血の気が多い。彼は何かにつけて決闘をしたがるのだ。相手の誇り−−つまりは意見を聞き入れる為の手段のようだが、近頃では、単に決闘をしたいから喧嘩を吹っ掛けているのではないかと思えてきた。
 私は彼の言う「決闘」を見たことはないのだが、牙を振り回している辺り、想像は容易い。まさか本当に殺し合いをするわけでもないだろうが、物騒極まりないことは確かだ。
 ついでに、私は決闘を申し込まれたことはない。

 イッカクの雄には牙がある。研究によると、雄はその牙の長さ等を比べて優劣を決めるらしい。しごく平和的に。
 決して武器として使用するわけではない、と、思うのだが。
「……育て方、間違えたのかな」
 多分、イッカクが他に居なかったから駄目だったんじゃないか。館長さんに頼んで、別の個体を……いや、一角さんに感化されるのは困るか。


 頭を悩ませていた私の背後にデビさんが隠れ、一角さんが別の理由で決闘だと叫び出すまで、あと少し。
 

2013.10.09 (Wed) 12:19
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