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::メンドー主の昔の話3

「……お前臭いますよ」
 アポロがひどく嫌そうな顔で言った。

 ○はこの男が自分を嫌っていることは知っていた。サカキに対する忠誠心が薄く、その割に彼に気に入られているからだ。出世のスピードも速かった。今は彼の方が立場が上だが、幹部にまで上り詰めたのは○の方が一足先だ。しかしいきなり罵倒される謂れはない。
 煙草の煙を吹きかけてやれば、ますます顔を顰めた。
「それが手助けしてやった仲間への態度か、えぇ?」
「何故そんなにも臭うんです」
「この間、俺のドガースの三匹目がマタドガスに進化してな……」
「捨てなさい」
 呆れたようにそう言った彼の顔は傷だらけで、同時に脱力したのが解る。それだけ逼迫した状況だったのか。もっとも、○が彼に手を差し伸べてやったのは、彼に勝機がなかったからではない。
「嫌だよ。ラムダさんに貰ったんだぜ」○は前部座席に乗り出しながら、運転している部下に向け言った。「ジョウトへ向かってくれ」

 ○はジョウトの生まれだった。正直なところ、カントーよりもジョウトの方が土地勘がある。シロガネ山脈を越え、すりばち山の辺りまでいけば、身を隠せる場所もあるだろう。ヘリよりもカイリューに乗った方が早かったかもしれないが、結局○の判断は正しかった。カイリューの背では手当はできない。
「それで、レッドにやられたのか」

 いつもの彼なら、「お前に言われたくありません」だとか、「黙りなさい」とか言うに違いない。しかしこの時のアポロは何も言わず、口を噤んだままだった。
 

2013.09.13 (Fri) 18:11
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