memo simple is the best! ::メンドー主の昔の話2 「シャワーズ、ハイドロポンプ!」 少年の声がトキワジムに響き渡る。薄青色のポケモンが、膨大な量の水を一気に噴き出し、自分より数倍も大きな体躯の相手を圧倒する。紫色のポケモンはぐらりとその巨躯を揺らし、片膝をついた。 ○は勝ちを確信していた。此方にはまだ数体のポケモンが残っているし、相手の最後の一匹、ニドキングも殆ど瀕死に近い状態だ。ジムリーダーの表情も、○の優勢を物語っていた。 あと一撃――あと一撃で、このポケモンバトルは終わる。 ○は不意に、握り締めていた掌を開いた。 次のシャワーズの攻撃で、このポケモンバトルは終わる。終わってしまう。 このトキワジムのバッジを手に入れれば、○の持つバッジは八個、ポケモンリーグに挑戦する資格を手に入れることになる。リーグへ行けば四天王に挑戦するだろう。そしてカントー最強の称号を得られるだろう。 ――では、その後はどうすれば良い? 少年が腕を伸ばし、シャワーズをモンスターボールに戻したのを見て、サカキは訝しげに眉を顰めた。ニドキングも不思議そうに挑戦者を見詰める。自分はまだ戦えるのに、判断を誤ったのかと。 サカキが声を掛ければ、少年は――○と名乗った少年は視線を横に逸らしながら、「いや、その、俺の負けで、良いです」と言った。その声には先程のバトルで見せたような威勢の良さは感じられない。 「どうした? それではバッジをやれんぞ。俺のニドキングはまだ戦える」 ○がサカキに目を向けた。サカキがよく知る表情をしていた。怯えている。 「あなたを倒したら、俺は、次は何をしたら、良いんですか」 職業柄――ロケット団のリーダーとして活動しているために、様々な人種と付き合いがある。○のような人間も数多く見てきた。むしろ、こういう人間との接触の方が多いかもしれない。こいつはバトル狂だ。 サカキは思案する。ポケモンバトルに取り憑かれた人間は何人も知っている。組織の人間にも多く居るし、サカキ自身ポケモンバトルは嫌いではない。しかしこの少年はその執着に見合った実力があった。 少年は言った。目標がなくなってしまうと。意味がなくなってしまうと。 「――○、永遠に強い相手と戦える職に興味はないか?」 back ×
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