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::メンドー主の昔の話

 レッドは歯を食いしばりながら階段を昇る。自分の行く手を邪魔したガラガラの霊は、街の住人が話していたようにロケット団に殺されたガラガラだったのだろう。あのガラガラがちゃんと天国へ行ってくれればいいのだが。
 マサラタウンという田舎町でポケモンと戯れ、オーキド博士のような人格者を見て育ったレッドにとって、ロケット団という存在そのものが理解できなかった。金を儲けるなどということの為だけに数々のポケモンを殺すあの集団が。
 ――階段を昇った先に何があるのか、解っている気がした。


 ポケモンタワーの最上階には見覚えのある黒い団服を着た男達が待っていた。そしてその一番奥に、苦悶の表情を浮かべた老人と、Rが刻まれている服を着た若い男が立っていた。恐らく、彼がフジ老人だ。
 ロケット団の男は部下を倒して目の前までやってきたレッドを見て、少しだけ目を細めた。
「報告は聞いてたが、まさかこんな子供に全員やられるとはな――お前も放っておけば良いじゃねえか。俺達なんかに付き合ってないでよ」薄い笑みを浮かべながら言い放つその男に、苛立ちが募っていく。レッドの顔の変化を見てか、再び男は嘲笑する。「ご立派な正義感だ。だが、使いどころは間違えるべきじゃねえな」

「ところで坊主、この塔がどうしてできたか知ってるか?」
 急に男の雰囲気が変わった。浮かべられていた嘲りの色が消え、ただひたすらにレッドを見詰めている。
「このタワーはな、ここに居るご老人が建てたんだよ。死んだポケモンの魂を慰めるために。自分が殺したポケモンに償いをするために」男はいつしか手にモンスターボールを握っていた。「まあ俺には解らんが……自分の好奇心の為にポケモンを殺してきた男のことなんて」
 レッドは彼の後ろに居るフジ老人に目を向けた。男が何を言っているのかレッドには解らなかった。そして事の真偽も解らない。しかしレッドは自分の中に沸き立っていた感情の名を、ようやく見つけた。これは、憤怒だ。

 男がモンスターボールを投げた。中から出てきたのは先程見たばかりのポケモンによく似ていながら、一回り小さなポケモン。
 カラカラはレッドに向け、骨をかざした。
「まあどうだっていい。お前もそうだろ? 誰かの後悔も懺悔も苦悶も俺達には関係ない。目が合ったらポケモンバトル、それだけだ」
 

2013.09.11 (Wed) 03:10
連載番外365|comment(0)

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