memo simple is the best! ::わたふこ主とサイタマ、秋に ずべりと音がした気がする。 顔面から転んだのは久しぶりだ。咄嗟に手は付けたものの、○の掌はアスファルトに熱烈なキスを交わしていた。痛い。膝も擦り剥いたらしく、鈍い痛みが膝からも伝わってきていた。これは、痣になる。まあ手も足も骨は折れていないようだから、放っておいても大丈夫だろう。 ボストンバックの中身は珍しく散らばらなかった。携帯はポケットから飛び出していたが、電源はつく。ほっと一息つきながら、立ち上がろうとしてからようやく○は自分の一連の動きが見られていたことに気が付いた。 「○、大丈夫かよ」 少しだけ眉を下げた心配そうな表情で、サイタマが此方を眺めていた。○の頬が羞恥心でぽっと染まった。 「転んじゃいました」 尻餅をついたままで○が言えば、此方に歩み寄ってきたサイタマは苦笑を浮かべ、「派手にいったなあ」と気遣うような声色でそう口にした。○もつられて笑えば、笑ってる場合かと再びサイタマが眉を下げる。 「悪かったなー、間に合わなくて」サイタマが言った。「ほれ」 差し出された右手――○が手を伸ばせば、サイタマはすぐに○を引っ張り起こしてくれた。 「あ、先生ごめんなさい。手袋に血、ついちゃったかも」 「ん? あー、いーよいーよ。これ洗うのは慣れてるし。それよりお前の方が大事だろ。俺みたいに丈夫じゃないんだから」 「……はい」 ○の両手と膝小僧を痛ましげに見詰めるサイタマに、○は思わず笑い声を漏らした。災害レベル“竜”にも表情一つ動かさない人が、○が転んだだけでこんなにも動揺を顕わにしている。サイタマが眉を寄せた。 「お前は泣かないなー」 ため息交じりにそう言って、彼も小さく笑った。 「ほら行くぞ」サイタマが○の手を引いたまま歩き出した。いつの間にか鞄も取られている。「こっからなら俺ん家の方が近いからな」 back ×
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