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::わたふこ主とジーナス博士と不幸体質について

 ジーナスは自身を不幸体質と称して進化の家に訪れた少女のことを、的確に判断していた。
 彼女は恐らく、身に降り掛かった不幸な出来事のその大半を、自ら引き起こしている。自分が不幸だと思い込むことによって、無意識的に起こる事象を自身が許容できる範囲で「不幸」なものとしているのだ。ジーナスがその推測を彼女に伝えなかったのは−−彼女が信じるか信じないかは別にして−−彼女が進化の家への協力を拒否したからに他ならなかった。ジーナスに彼女の望みを叶えてやる義務はない。
 ジーナスが彼女に興味を抱いた点は、怪人との遭遇率、及び彼女の生存率についてだった。

 少女の語ったところによると、今までに彼女は何度も怪人に襲われ、幾度となく死にかけたとか。しかし、彼女の生存率は100%だ。彼女は生きている。一口に怪人と言っても様々あるが、彼女の話には災害レベル鬼以上と何度も遭遇していることが窺えた。
 はっきり言えば、これは異常だった。
 彼女は不幸体質などではなく、怪人を呼び寄せる体質なのではないか。彼女の話を聞いてジーナスが出した結論だ。無論、検査の一つもしていない為、憶測の域を出ない。
 体質というより、超能力の一種と捉える方が理解が容易かもしれなかった。手で触れずに物を動かせたり、自在に火を操れたり、未来を見通すことができたり。その延長で、怪人を呼び寄せるのでは。
 彼女がジーナスに協力すると言ったなら、ジーナスは彼女を阿修羅カブトに引き合わせたかもしれない。

 あの失敗作が、少女をどうするか。ジーナスの考えでは、恐らく何もしない。彼女の能力は、単に怪人を呼び寄せるものと考えるより、怪人を操るものとした方が、彼女の話を理解する上で無理がないからだ。単に呼び寄せるだけなら、彼女は今頃死んでいる。
 怪人を呼び寄せる体質だとして−−もしくは不幸体質だとして−−それならば何故、彼女は生きているのか。
 これには先の不幸云々が絡んでくる。つまり彼女が無意識下で怪人を操り、自分が死なない範囲で襲われるよう仕向けているのではないか。怪人に襲われるのは無論、彼女の言葉で言う「不幸」に他ならない。そうでなければ説明がつかない。仮に単なる呼び寄せる体質だとすれば、彼女は不幸体質どころか、超幸運体質と言わなければならないだろう。

 ジーナスの仮説は勿論仮説でしかなかった。そもそもジーナスは彼女の話を聞いただけで、明確な実験と検証を繰り返したわけではない。
 君の「不幸体質」を治すことは私にはできないと言って、ジーナスは普通に家に帰してやった。
 元よりジーナスの目指すところは自分以上に優れた新人類の創造であって、怪人についてはどうでも良かった。それにジーナスは彼女の体質を突然変異のようなものと捉えていたから(彼女の家系は実にごく平凡だった)、人工的に造り出された変異ならともかく、自然発生した能力には興味がなかった。
 彼女はこれからも自身の体質に悩まされるに違いないと、ジーナスは他人事のように考え、やがて頭の隅に追いやったのだった。
 

2013.07.07 (Sun) 20:29
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