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::メンドー主とレッドと三本勝負

 ○からジムを一日貸してくれないかと言われた時、こいつは何を言っているのだろうと思った。チェレンはポケモンリーグの公式ジムリーダーであるわけで、私事でジムを使うのはモラルに反している。しかしそれでもチェレンが○の要請に応じ、明日ジムを貸し出すことにしたのは、彼が正式な場で何をしようとしているのか、気に掛ったからだ。
 ポケモンジムでやることなど一つしかない。
 自分と本気で勝負することを約束に、チェレンは彼から嫌な具合に影響を受けているのだろうなあと考えていた。以前のチェレンであれば、きっと○の求めを撥ね付けただろう。


「……ベルちゃん? なんで此処に?」
 駆け寄ってきたベルを見てそう言った○の顔は、見物だった。

 次の日、○はポケモンバトルの相手だろう青年を連れて現れた。顔立ちからいってカントーの出身だろう。年は二十歳前後だろうか。○はその青年のことをレッドだと言って紹介した。知らない名前だった。
 レッドは頑なに無言を貫き、そしてずっとチェレンと視線を合せなかった。そして○の腕を抱いている。こいつらホモか。チェレンの怪訝な表情に○は言った。「チェレン君と目が合ったら、バトルしなけりゃならなくなるだろ?」
「前に俺がその手で逃げたもんだから、こいつも警戒しているんだろうさ」
 はあ、と生返事を返す。口を利かないのは普段からだから気にすることはないとも。チェレンの脳裏に過るのは、最近顔を見ていない幼馴染のことだった。キャップを付けていることといい、トウヤが大人になればこんな風になるのかと、少し思う。
 ○の口振りでは、どうやらバトルをしたがっているのはこの青年の方らしかった。

 そして、ベルがやってきた。彼女曰く、今日ヒオウギへ行けば良いことがあるだろうと思ったとのことだ。彼女は超能力者か何かなのか。
 ベルを見て○が苦々しげな表情を浮かべることは珍しく、チェレンは不思議に思った。問いかければ、暫くの間を置いて○が言った。
「誰が好き好んで負け姿を見られたいと思うんだよ」

「……え、○さんが負けるんですか」
 チェレンが口にすると、○はますます顔を顰めた。○はチェレンが知る中で屈指の実力者だった。その○よりも、この青年の方が強いというのか。チェレンはまじまじと、目の前の男を見遣る。いや、マジで?
 ○とベルは暫く言い合っていた。しかし、すぐに決着はつく。○が折れたのだ。チェレンは未だ、この二人の力関係が解らない。


「いいかレッド、三本だけだぞ。それ以上は付き合わないからな」
 レッドが黙ったままこくこくと頷いた。そして、チェレンの常識がひっくり返った。二人のバトルは新人の審判には荷が重く、途中からはチェレンが審判をすることになった。

 一試合目はレッドが勝利した。チェレンはそれまで、○の手持ちポケモンを四匹しか知らなかった(バトルメンバーでないタブンネを除いてだが)。それはチェレンの実力が、○のポケモンを三匹までしか倒せないことを意味している。しかし、レッドはやすやすと○の手持ち達を下した。それが単なる肩慣らしだとでも言いたげに。
 ポケモンセンターでの休憩を挟んで二試合目、勝ったのは○だった。○は手持ちポケモンを変えてきていた。おそらく二人の間で交わされた条件だったのだろう。どれも○が普段連れているポケモン達よりも格段に鍛え上げられていて、これが彼の本気なのだと初めて実感した。
 一試合目の後、○とのポケモンバトルについて何も言わなかったレッドだったが、今回もやはり何も言わなかった。しかし、確かに高揚していた。

 チェレンはすっかり異国のポケモントレーナー達に魅せられていた。三試合目、勝ったのはレッドだった。橙色のドラゴンポケモンが地に伏した時、○はひどく悔しそうだった。
 レッドがどこの誰で、何者なのか、チェレンは知らなかった。知るのは一週間ほど後のことだ。○との三試合の後、レッドはチェレンの挑戦を受けてくれた。○が立ち去らないのを条件にだが。拗ねている様子だった○は、チェレンがレッドに完膚無きまでに叩きのめされるのを見て、少しだけ機嫌を直したようだった。この野郎。
 

2013.07.03 (Wed) 17:05
連載番外365|comment(0)

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