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::水族館主とサカマタと風邪っぴき

「うわ……ここんにちは、サカマタさん……」
「ん――ああお前か」
「……サカマタさん、どうかなさいました?」
「何の話だ」
「いえ――サカマタさんが出会い頭に何もしてこないなんて……おかしい……」
「お前は俺を何だと思っているんだ」
「ちょっと厄介な同僚、ですかね」
「……まあ……言い得て妙と言ったところか……」
「サカマタさん?」
「何だ」
「あの、ほんとに大丈夫ですか? 疲れてます?」
「多少な――っくし」

「……」
「……」
「風邪引いてるじゃないですか!!!」
「風邪と言うほどではない」
「ちょっとー、もー……発熱は? どこか痛むところはあります?」
「途端にきびきびし出して。何だお前は」
「今尋ねているのは私なんですけど?」
「……別に痛むところはない。発熱もない。ただ……まあ……多少寒気はするかな」
「引き始めですかね?」
「言ったろう。風邪と言うほどではない」
「つまり、これから風邪と言うレベルになるだろうということですね」
「……」
「サカマタさん、今日はもういいです。お休みになってください」
「しかし業務があ――」
「もういいと言った筈ですが? ご心配なく。全て私がちゃんとやっておきますから。まあ、ショーをやれと言われたら無理ですが……ああ、それも伝達しておかなければなりませんね――サカマタさん、元の姿の方が休めますか? それとも今のままでも大丈夫ですか? 私としては、病状がはっきり解る今の方がありがたいのですが」
「……変身は、していない方が良いな」
「そうですか。解りました。館長を呼んできますね」
「すまん」
「いいんですよ。大体、サカマタさんは働き過ぎなんですよ。館の業務、現場で管理してるのはサカマタさんでしょう。もう少し分担すべきなんですよ。まったく――」
「(前より楽になっている、などとは言えないな……)」
「――ともかく今日は一日、じっくり体を休めてください。何かして欲しいことがあったらすぐに呼んでくださいね」

「……○」
「なんです」
「お前、俺相手にも普通に口が利けるんだな」
「……あのねえ、食物連鎖の頂点に立ってるサカマタさんには、そりゃ、怖い物なしかもしれませんが、私は今もびくびくしてるんですよ? 何度も言ったと思いますが、シャチは本当に怖いんです。トラウマです。でもあなたは水族館の動物で、私は飼育員なんです。心配するのが当たり前でしょうが」
「……そうだな」
「なんです? 不満そうですね」
「別に、不満ということはない。ただ……」
「ただ、なんですか? そうやって煮え切らない態度を取るのも、風邪引いてる証拠ですね。いつもならサカマタさん、もっとはきはき喋るでしょう。仕事のことなんて全部忘れて、今日はゆっくりしてください。そして風邪を治してください。いいですね?」
「ああ」
「後で獣医を寄越しますから。嫌がって暴れたりしないで下さいよ」
「お前、普段からそういう風に話せばどうだ」
「何か言いましたか」
「いや」
 

2013.06.26 (Wed) 16:57
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