幸せとはなんなのだろう。お金を沢山持っていることが、幸せとは限らない。権力があるとが、幸せとは限らない。誰かに愛されていることが、幸せとは限らない。私にとっての幸せはなんだろう。イルミに愛されること?しかし、それだけで完全に幸せと考えられるだろうか。イルミのことを考えると、お母さんやお父さんの顔が浮かぶ。 なにか悩みがあったら、すぐに言うのよ。隠し事なんてされたら、ママ悲しいからね。 頻繁にお茶に誘ってくれるのも、きっとキルアが家出をして寂しいのだろう。私が家出をしたあとすぐに、キルアも家出をしたのだ。きっと複雑な気持ちだったのだろう。 悲しそうなお母さんの顔。私が家に戻ったとき、とても嬉しそうに笑っていたけれど、私が少し曇った顔をするとお母さんもとても悲しそうな顔をしていた。もうあんな顔はさせたくない、と何度も反省したはずなのに。 「おはよう」 『・・・あ、・・おはよう・・』 目が覚めた時、隣にはイルミがいた。先に目を覚ましていたのだろう彼は、私の頭を撫でて珈琲の用意をし、普通の恋人同士のように何気ない会話で朝を迎えてくれる。 「ルームサービス取ろうか、適当に頼んでいい?」 『うん』 「まだ起きないほうがいい。今日はのんびりしておこう」 お互いにマグカップを持ち、熱いコーヒーを飲みながら、とても幸せな時間を過ごしていることに満足しつつ、このままで本当にいいのか、と心の中で自問自答している。このままではいけない、とわかっているから揺れているんだ。 『・・・やっぱり帰ろう』 その言葉にイルミは表情ひとつ変えずにコーヒーを飲み干した。いままでの柔らかい空気が嘘のように、ピン、と張りつめる。 『ちゃんと説明して、理解を得よう。じゃないときっと心配する』 「理解が得られなかったら?」 『その時は・・・』 「・・・・」 『イルミがいいなら、またどこか遠くに連れて行ってほしい』 家を継ぐのはキルアかも知れないけれど、イルミは大事な家のかじ取り役だ。私一人が私欲の為に連れまわしてはいけない。 『やっぱり、お母さんとお父さんにはちゃんと言った方がいいと思う。否定されたって、かまわない。理解が得られなくてもいい。無理に理解してもらおうなんて思っちゃいないから』 「ーーー親父は知ってる」 というか、気付いている。そういう言うイルミは妙に落ち着いていて。 「母さんにはもう少し落ち着いてから報告したほうがいいと思う。親父がいる時に言わないと、なにをしだすかわからないから」 ヒステリックなお母さんのことだ。あることないことを想像して、わたしたちを責めるか、自分を責め始めるかも知れない。 「だいじょうぶ」 ぴたり。冷たい手の平が、頬に当てられ、ゆっくり撫でる。 「帰ろう。家に」 優しい笑顔だった。まるで不安を拭ってくれるような、無理のない笑顔。 「家の中でも、ふたりきりの時はちゃんと恋人同士。それは忘れないで」 無かったことにはしないでと、触れるだけの口付けをくれるイルミに身体を預けた。本当は帰りたくなかった。今はまるで、夢の中にいるようで。夢か現実か、わからないような頭がふわふわとしたこの世界から、一生覚めたくない、と瞳を閉じる。このまま覚めてしまうのが、ただ怖かった。 |