『は…、離して…!』 「離さない」 『離して…、あっちにいって…』 「…カンナ」 絞り出した声が、思ったよりも震えてしまい後悔した。私の名を呼ぶイル兄の声がとても切なそうで。うつむいているからわからないけれど、きっと彼の顔は辛そうなんだろう。 ただの妹だと思ってない、と言ったあの日から、イル兄がふいに切ない顔を見せることに気付いていた。 「カンナ、泣かないで」 『…っ、…』 「困らせてごめん」 また、辛そうな声が聞こえた。私はいつの間にか泣いていて、なぜ泣いているか、頭ではわかっていた。 「それでもカンナの気持ちが知りたい」 ーーーダメだ そんな残酷な質問をしないでくれ、と目を伏せる。息もできないくらいに、ドンドンと心臓がうるさく胸を叩くように鳴り響いた。 『……自分が…わからない…。ずっと、考えてしまう。……イル兄のこと。…私は、もしかしたら、だなんて…』 「もしかしたら?」 『……っ、…』 「言って、ちゃんと」 イル兄を想う度に、私が辛くなるのは。イル兄が私を見る度に辛そうな顔をすることと、私自身が、自分の中で生まれていた感情に気付いてしまったからだった。 ーーーきっと、私は、イル兄のことを、 ここまで心の中で呟いて、その後の言葉は封じた。ただ、イル兄が触れている指先からじんじんと熱が高くなって、今にも息がとまりそうだ。 『やっぱり、だめだ、』 「……」 『壊れてしまうから』 「…もう壊れてる」 『………確証はないけれど』 「……」 『たぶん、私は、』 「……うん、」 『イル兄のことが、』 「…、…」 『ーーーー好き…、なのかも知れない』 ガラガラと、崩れていく。 |