白翼長編 | ナノ





『は…、離して…!』

「離さない」

『離して…、あっちにいって…』

「…カンナ」




絞り出した声が、思ったよりも震えてしまい後悔した。私の名を呼ぶイル兄の声がとても切なそうで。うつむいているからわからないけれど、きっと彼の顔は辛そうなんだろう。

ただの妹だと思ってない、と言ったあの日から、イル兄がふいに切ない顔を見せることに気付いていた。




「カンナ、泣かないで」

『…っ、…』

「困らせてごめん」




また、辛そうな声が聞こえた。私はいつの間にか泣いていて、なぜ泣いているか、頭ではわかっていた。




「それでもカンナの気持ちが知りたい」




ーーーダメだ

そんな残酷な質問をしないでくれ、と目を伏せる。息もできないくらいに、ドンドンと心臓がうるさく胸を叩くように鳴り響いた。




『……自分が…わからない…。ずっと、考えてしまう。……イル兄のこと。…私は、もしかしたら、だなんて…』

「もしかしたら?」

『……っ、…』

「言って、ちゃんと」




イル兄を想う度に、私が辛くなるのは。イル兄が私を見る度に辛そうな顔をすることと、私自身が、自分の中で生まれていた感情に気付いてしまったからだった。

ーーーきっと、私は、イル兄のことを、

ここまで心の中で呟いて、その後の言葉は封じた。ただ、イル兄が触れている指先からじんじんと熱が高くなって、今にも息がとまりそうだ。




『やっぱり、だめだ、』

「……」

『壊れてしまうから』

「…もう壊れてる」

『………確証はないけれど』

「……」

『たぶん、私は、』

「……うん、」

『イル兄のことが、』

「…、…」

『ーーーー好き…、なのかも知れない』




ガラガラと、崩れていく。






(4/4)
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