「カンナ、」 伸びたカンナの髪をすくい、口付けた。 『い、…イルにい、』 「大丈夫、ここは監視下にないから」 『違う、そうじゃなくて…』 「…触れられるのはイヤ?」 震える頬に手をあて、ゆっくりと撫でてやると彼女は、あ、と小さな声をあげた。きっと怖くて堪らないのだろう。 5年前、彼女の頭に針を埋め込んだ時に覚悟は決めていた。いずれ針を抜き取ったとしても、強く頭に張り付いた彼女の兄への恐怖心全てを拭い去ることができないことを。 『……わか、…らない…』 「…そう」 視線を下げて無意識に身体をビクつかせるカンナ。無理もない。いい加減、カンナもガキじゃないんだから。 冗談でオレがこんなことを言うなんて、さらさら思っちゃいないだろう。 「……ねえ、カンナ」 嫌がる手にナイフを握らせると、カンナは状況を理解できずに言葉を詰まらせた。 「嫌だったら、さ」 『……っ』 細い指が、震えながらもナイフを掴む。それを首もと、頸動脈の横に誘導してやり、刃を薄く食い込ませた。 「──・・オレを殺して」 刃に薄く血がつく。視線を合わすことのできないカンナの瞳はそれを見て、大きく揺らいでいる。潤んだ瞳からは今にも涙が零れおちそうだ。 「きっと殺されるまで、抑えれないから」 『……!』 「もう嫌なら、やめて欲しいなら、このまま首をはねて」 『…ぁ、……』 「そうしてくれないと、もうオレはカンナが欲しくて欲しくて堪らない」 唇を重ねると、強く唇を閉ざされた。しかし、歯の間を割って逃げる舌を追いかける。 『…んん…!』 「…カンナ、」 『…ふ、…ぃ、…るに…』 「ごめんね、愛してる。心からカンナの全てを愛してる」 『……っ、』 カンナが泣いてる。震える手に握られたナイフが、無残に床に落ちていく音が響いた。涙に口付けて、また唇を深く重ねる。 『…ふぅ、…ぁ……!』 柔らかくて小さいカンナの唇。指触りのいい髪も、白くて華奢な腕も脚も、全部全部、自分のものにして、どこかに閉じ込めてやりたい。そうすれば、今は逃げる舌も、こうやって捕まえて絡めとって、躾て、いつか自分から求めるようになるまでドロドロに溶かしてやるのに。 決定的ともいえる、カンナの心の弱さ。その弱みに漬け込んでる。 協会にいた3年間で、カンナは一人も息の根をとめてはいない。いつも相手が動けなくなるまでしか、傷を負わせてない。カンナはオレを殺すどころか、刺せやしない。 背徳感も、罪悪感すらも、もうどうでもいい。どんな手を使ってでも、兄だなんて思わせない。男として認識させてやる。 |