『うーん、もうすっかりさむいねぇ』
「そうだな。しっかり防寒しないと風邪をひくぞ」
『小太郎もね』
だれもいなくなった空っぽの教室にふたりっきりだった。
ひんやりとさめた空気が節操なくただようのに顔をしかめながら、首もとにまいたチェックのマフラーにすっぽりと顔をうずめる。となりにすわる小太郎の首もとをあたためるのもまた、色ちがいのおんなじマフラー。
わずかな距離感でかすめる彼の体温がここちよくて、わたしは自然と笑う。
「まぁ、こうすればすこしはあたたかいか」
ふいにいった小太郎が、すうっとわたしの手をさらっていったので、わたしはその唐突さにすこしだけおどろいたのだけれど、なんにもいわずにそれにまかせて手をとられた。
つないだ彼の手はすこしだけつめたい。そのつめたい手が、わたしの手をもうすこしだけつよくにぎった。わたしはあいかわらず小太郎のなすがまま。
ふと、わたしと小太郎の手の温度がどろどろに溶けてひとつひなるみたいだ、なんて子どもみたいなことを考えた。
「おまえの手はいつでもあたたかいな」
『そうかな?』
「あぁ、俺は好きだぞ、おまえの手」
『ありがとう、うれしい』
小太郎がふわりと笑うたびに、わたしの体温はすこしずつすこしずつ熱をおびていくのだ。けれどふしぎなもので、上がりきったわたしの体温をほんのすこし下げてくれるのもまた、小太郎のつめたい手のひらだね。
『わたしの手があったかいのはきっとね』
「あぁ」
『小太郎のおかげなんだよ』
わたしたち、どろどろに溶けて、ひとつになってしまえばいいのに。
放課後の教室は少し寒くて、きみの手はこんなにも温かい。
(アンバランスに溶けあう。)
title:確かに恋だった