めずらしくケーキを買ってきた。俺じゃなくて彼女が。 ああそうか、今日は10月10日で、とか思っちゃったりした10秒前のしあわせな俺を、今は殴り倒したいと思う。俺の横を素通りしてソファーに直行した彼女をすこし呆気にとられながらながめた。 おめでとう、とかそういうのも一言もなしで、わたしが食べたいから買ってきた、とだけいって三角形のショートケーキをひとつ、俺にむかって差し出した。 いや、うん。まああれだよ。誕生日を祝ってほしいだなんてことは思っちゃいなかったが、実際彼女からおめでとうのひとつもないと、なんとなくおもしろくねーもんで。 俺なんかのことは気にもとめず、本当においしそうにケーキを食べる彼女を見ると、やっぱりおもしろくなかった。 真っ白な皿にのったケーキをフォークでつつきながら切り崩す。
『ケーキなのにがっつかないんだね。めずらしくない?頭打った?明日雨かな』
「べっつにぃー?なんでもないですけどぉー?」
『なにそれ。なんか今日おかしいよ銀時。きもいからやめて』
「なんかひどくね?つかおまえイチゴ食わねーの?」
『まさかそんな。最後までとっておく派なんですぅー』
「んなことしてっと食っちまうぞ」
『いくら銀時でもわたしのイチゴはわたさない』
「俺よりイチゴですかこのやろー」
『いや、銀時だって自分の分のイチゴ食べたじゃん』
いやそうだけど。そうだけどさ。 なんだよこいつ。いっつもかわいくねーけど、今日はよりいっそうかわいくねーじゃん。本当に彼女かよ。いやまじで。 あれじゃないの、誕生日ってさ、自分にリボンとかつけちゃってさ、プレゼントはわたしだよ、みたいなこととかいっちゃったりしてさ、そのあとベッドの上でふたりだけの運動会みてーなさ。あれ、ちがうの。 俺の皿にはとっくになくなってしまったが、彼女は最後にのこしたらしいイチゴにフォークをさして、ぱくりとひと口。まじで俺のほうとかひとつも見やがんねーの。
『へへっ、おいしい』
そういって笑う彼女が本当に、やっぱりどうしてもおもしろくなかったので、 名前を呼んで頭をひきよせて、それから続けざまにキスをひとつ。 間髪いれずに口の中でどろどろに溶けたイチゴをきれいさっぱりうばいとってから、ゆっくりと唇をはなした。 なんか、さっき俺が食べたイチゴよりもすこしだけ酸っぱかった気がする。
「あーうまかった。ごちそーさん」
ひさしぶりに恋人らしいことをした気がする。誕生日くらいハメはずしたっていいよね。バチあたらないよね。大丈夫だよね。 さっき食べたイチゴに負けず劣らず頬を真っ赤にした彼女が、死ねバカ天パ、といって投げつけた紙の角が俺の腹にあたって落ちたので、いてーなバカやろー、とかいいながらそれをひろいあげる。 なにこれメッセージカードじゃん。あ、そういや今日は10月10日で、というようなことをまた思い出したが、いやいやこいつはんなことする女じゃねーよ、と思い、それをテーブルにおこうとする。 が、やっぱりどうしても気になってしまったのでそうっとカードをひらいてみると、少々丸まった女らしい字で、誕生日おめでとう、とだけ書かれていたので、俺は思わずすこしだけ、いや盛大ににやけた。
押し入れにこもって出てこない彼女にむかってさんきゅ、とつぶやくと、ちいさな声でべつに、とかえってきたが、結局そのあともそいつは小1時間ほどそこにこもりっぱなしであった。 それでも、1時間後にふすまの隙間からひょっこりと顔を出し、恥ずかしそうにうつむく彼女をやっぱり愛しいと、そう思ったのであった。
-------------------------- とんだ駄文。たが愛だけはある。おめでとう坂田。これからも坂田でいてください。
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