わかれ話にも似た雰囲気だった。 夜空にはりつくお星さまだけが、しずみゆくわたしたちをみている。わたしはだまって東月くんが口をひらくのをまった。 わかれ話にも似ているけれど、でもこれはきっとちがうと思うの。 だってね、星がこんなにもきれいなんだもん。いつか東月くんがおしえてくれたきれいな星座が、おちてくるみたいにたくさんひかっていた。
「俺たちさ」
『うん』
「たぶん、だいじなところをとばしてきたんだよな」
『そうだね』
「気があせってたんだ。だれにもとられたくなくて」
東月くんが視線をおとす。思えばわたしもそうだった。 わたしと東月くんは、はじめて顔をあわせてからあまり月日がたたないうちに、自然とおつきあいをはじめていた。 惹かれあうものがあったんだと思ったし、一目惚れという言葉もあるくらいだからだいじょうぶだって思ってた。 会ったときから好きってきもちはなんにもかわらないのに、なんとなくうまくいかないんだ。でも大好きなの。本当に。
「俺はみょうじのことが好きだよ。本当に」
『わたしだって東月くんのこと、す、好きです』
やっとの思いでそういった。 好きってまっすぐにつたえようとすることは、今のわたしにはちょっとだけむずかしい。
「うん。じゃあやっぱり友だちからやりなおそうか」
やさしい声が、ちょうどいい温度でわたしの心臓にしずむ。やっぱりわたしたちは、おんなじことをかんがえていたみたいだった。 恋人を意識するとすこしもうごけなくなってしまうのは、東月くんをしるということを、ぜんぶぜんぶとばしてきたからだ。 好き!ってきもちだけでは、どうしようもできないことだってある。 でもわたしたちはだいじょうぶだ。すこしだけお友だちにもどって必要なものをひろってくるだけで、きっと好きってきもちはなくならない。 わたしはたぶん、もっともっと東月くんを好きになるんだ。
『はい。よろしくおねがいします』
「かしこまらなくていいよ」
ちょっとだけ泣きそうになったのは、かなしいからじゃない。 東月くんがすこしさみしそうな顔をしたことや、本当のことをいってくれたことがとてもうれしくて。 のびてきた東月くんの手が、わたしの髪をくしゃくしゃとなでまわす。やさしいだけの彼の手は、今日はじめてほんのちょっぴり横暴だった。
『か、髪がぐちゃぐちゃに』
「ははっ。みょうじの頭はまんまるだな」
『まる…!?』
「たたきたくなるよ」
こんどはぽんぽんと、東月くんの手がやわらかくわたしのあたまをたたく。わたしはやっぱり、東月くんが好きだなあ。本当に。とってもとっても。 だからこんどはしっかりと、東月くんとみるすべてのものをちゃあんとひろいあげて、そうっとあつめていきたいと思うのだ。 そうしてまたぜんぶがそろったときに、錫也くんが好きって、こんどはわたしの口からいいたいな。
あたたかな春に溶けるまで、身をまるめてねむるように。そうやってわたしたちは春を待つのだ。
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