日曜日のデート(たぶん)で、ひとつ気がついたことがある。 俺とみょうじは、出会ってから今まで、すくなからずいろいろな階段をいっしょにのぼってきたわけだけれども、なんというか、その階段を、1段とばしどころか2、3段とばしでのぼってきたんだ、と思う。 それに気がついたのが、このあいだの日曜日。ひさしぶりにいっしょにでかけたとき。 そして今日は、1日たった月曜日。休み明けのなんともいえないだるさがまとわりつく朝だ。 そんなだからか、チャイムがなる5分前になってもみょうじのすがたがみえない。 寝坊でもしたかな、とかんがえてみる。俺はたぶん、1日の大部分がみょうじでできている。
「なまえちゃんがおそいのめずらしいね」
「あ?まぁそのうちくんだろ」
月子はすこし心配そうにいったけれど、哉太はいつもとかわらずこの調子だ。 まぁべつに、俺もそこまで心配しているわけじゃないけれど、たしかに彼女が遅刻というのは本当にめずらしいと思う。 ほどなくしてばたばたとせわしなく廊下を走るおおきな足音がきこえてきたので、それがまちがいなくみょうじのものだとわかった。頬がゆるむ。 がらりとドアがあいて、息をきらせながらそこにたっていたのはやっぱりみょうじで。
「おせぇぞなまえ」
「おはようなまえちゃん」
「おはよう。遅刻ぎりぎりだな、みょうじ」
口ぐちに言葉をかける俺たちを彼女はうれしそうにながめ、ちいさくはにかんでおはよう、と一言。 ああ、やっぱり寝坊だな、と思った。だってあきらかに今おきましたって体裁してる。
『ちょっと寝坊しちゃった』
「次からは気をつけろよ?」
『うん。七海くんよりおそくならないようにする!』
「てめっ!バカにしてんのか」
みょうじの言葉をうけた哉太が、彼女のあたまをぐしゃぐしゃにして満足そうに微笑んだ。そしたら彼女が、ぼさぼさになった髪をあわてておさえながらなげく。最後にそれをみた月子と俺があきれて笑った。 そういえば、最後にみょうじのあたまをああやってなでたりしたのって、いつだっただろう。いや、つきあいだしてからはたぶん1度もないかな。なんだ、俺ってただのヘタレじゃないかって苦笑い。 哉太の手からのがれてきた彼女が俺のとなりにすわって笑った。 そのときふとみた彼女の胸もとをふちどる赤いリボンが、ちいさくまがっていた。
「みょうじ、リボンまがってる」
すこし笑ってそういえば、え!って恥ずかしそうにうつむいて、あわててリボンに視線をおとす。 それをながめながら、まがったリボンをむすびなおしてととのえてやると、彼女はまた、ふわりとはにかんだ。
『ありがとう東月くん』
「女の子なんだから、もうすこし身だしなみに気をつかえよ?」
『はーい。ごめんなさいお母さん』
ふしぎだ。恋人を意識しないと、こんなにも笑えるんだけどな。 いたずらっぽく笑うみょうじに、だれがお母さんだ、とチョップをひとつ。それにさえふふっと笑う彼女が、今日はやけにたのしそうだった。
やっぱり俺たちは、すこしばかりかけ足でここまできてしまったんだと思う。 だからって、まだ終わりなんかじゃなくて、こんどはちゃんと、ぜんぶぜんぶふみしめながらゆっくりと歩いていきたいと思うのだ。 そうやってぜんぶをふみしめて、あたまもなでられるようになって手もつなげるようになったときに、そのときにまた、俺の口からなまえが好きだっていいたい。 そうしてふたりでいろんなものを築きあげたなら、こんどはお嫁さんになってくださいって、俺の口からそういえたらいいと思う。冗談でも夢でもなく。本当に。
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