こういうのもなんだけれど、わたしの彼氏さんはとってもかっこいいと思う。 お料理がじょうずで、お菓子屋さんも顔負けのとびきりおいしいお菓子をつくっちゃうし、ちいさな気づかいができる紳士的なところはかっこよくて、とっても絵になる。 大好きなきもちはすごくおおきいのに、かえってそれが邪魔をしてしまって、わたしはいつも、ちいさな臆病者になる。
こうしてとなりを歩いていたって、手をつなぐことはおろか、名前をよぶことだってできないままなんだ。
『東月くんとこうやってあそぶの、ひさしぶりだね』
「そうだな。ごめんな、急にさそったりして」
『う、ううん!うれしかったよ』
「そっか」
小花柄のワンピースをひるがえす。 なやみになやんで決めた、すこしながめのワンピースをきゅっとにぎりしめた。変じゃないかな。だいじょうぶかな。 思えばわたしは、東月くんがどんなお洋服が好きなのかをしらない。 いき先を決めずにふらふらと歩くあいだ、ちいさな世間話をたくさんした。東月くんは、なんにもいわずに車道側を歩いてくれていた。やさしいなあ、本当に。 ついこのあいだのように、哉太のことが好きか、ときく東月くんは、もうどこにもいないのだ。
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ふいに甘いにおいが鼻をかすめたので、それにすいよせられるようにちらりと横をみたところ、なんとおいしそうなクレープ屋さんをみつけてしまった。 いちごにカスタード、キャラメルソースにチョコレート、アイスにバナナにホイップクリーム。うわあ、どれもおいしそうだなあ。自然と頬がゆるむ。 そんなわたしのようすをみのがさなかった東月くんが、ぴたりとたちどまった。
「もしかして、クレープ食べたい?」
『え!ああ、いや、うん、あの』
「食べたいんだな。そういうとき、いってくれていいから」
『そっか。ありがとう』
なににする?ってきかれて、すぐにアップルカスタード!ってこたえると、そのときのわたしがあまりに必死だったからか、東月くんはわかったわかったと笑った。 あ、今の笑顔、すてきだったなあ。
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東月くんが買ってきてくれたクレープを、ありがとうって受けとる。 ふわりとただようやさしいにおいに目をほそめながら、いただきますをして、ぱくりとひと口。 りんごとカスタードがとってもまろやかでやさしくて、本当においしい。おいしいんだけれど。
「うまい?」
『おいしい、けど、』
「うん」
『東月くんがつくるお菓子のほうが、ずうっとおいしいよ』
なんだか本当に、いちばん最初にそう思った。 きもちわるいことをいっちゃったかなって、ちょっと後悔したけれど、でもまぎれもない本心だったから。 目をまるくした東月くんが、照れたように笑う。
「アップルパイ好きだったよな、みょうじ」
『おぼえててくれたんだ』
「あたりまえだろ?今度つくるよ」
東月くんのつくるアップルパイかあ。あたまの中いっぱいにそれをうかべる。 きっと生地はさくさくで、でも中はとろとろであまくてやさしくて、すっごくおいしいんだろうなあ。思いうかべただけでしあわせになっちゃう。
『あのね、東月くん、いつもそうやって笑ってくれるとうれしいです』
「みょうじは、そうやって本当のこといってくれるとうれしいよ」
わたしたちはおたがいに、ひさしぶりに笑いあった気がした。 ひと口食べる?ってさしだしたクレープを、ありがとなって自然に頬張る東月くんが、わたしは好き。
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