「みょうじのことなんだけどさ」
哉太、と、俺の名前をひとつよんで、制服のまんまの錫也は俺のとなりにすわった。ひどくうかない顔だった。 ここ最近こんなシチュエーションをよくみた気がする。というのも、最近の錫也はよく俺に彼女のことをきくし、彼女もまた、よく俺に錫也のことをきくのだ。 つきあっているんだから、それくらいのことは直接きけばいいだろうと思うのだけれど、彼らにとってはそれさえたくさんの勇気がいることなんだと思う。 なんていうか、ヘタレなんじゃないか、おたがいに。
「つーか、なんでなまえのことを俺にきくんだよ」
「だって俺より仲いいだろ?みょうじと」
そんなわけあるか。 皮肉っぽく笑う錫也を視界にいれながら、ちいさくため息をつく。 だいたい俺となまえが仲がいいって。いや、まあ、仲はいいけれど。でもあいつはびっくりするくらい錫也のことが好きだし、俺ももちろん友人としての好意のみで接しているわけで。不純なきもちはいっさいない。 なまえのほうなんか、俺には錫也のことをきくばっかりで、本当に、なんていうかこいつらはおたがいのことが大好きなんだな、と思う。いや、あまりうまくはいっていないけれど。
めずらしくあたまをかかえてうなだれる彼を、どうしたものかとながめるが、なんにもいわずにとなりにすわっていることしか結局俺にはできなかった。今日の錫也はだいぶ重傷らしい。 ため息をついた彼が、ふいに口をひらく。
「昨日、みょうじに哉太が好きかってきいた」
「バカだろ、おまえ」
「びっくりしてたよ」
「あたりまえだろ」
「やっぱりきらわれたよな」
「それはねーよ。あいつ、俺の前でだって錫也のことしか話さないんだぜ?」
「だったら、なんでなんにも進展しないんだ」
押し黙る。どちらからともなく。 俺も本当に、錫也のいうことがわからなくはない。 彼らはたがいのことをつねに気にかけ、だいじにしているのだ。どこからどうみても。だれがどうみても。 ただ、おそらく遠慮しすぎているんだろうな。どちらも。月子もそういっていた。羊だってよそよそしいといった。 もっとこう、ふみこめばいいんじゃねぇか。そういったとき錫也は、こわれてしまわないか不安なんだ、といった。 まあ、それでこわれてしまうような程度ならこわれてしまえばいいと思う。そうとはいえず、俺はまた黙りこむ。
「どうしようかな」
「だあああ!もううじうじすんなよ!直接話しゃいいだろうが!」
たちあがってこぶしをにぎる俺に、それができたら苦労しないさ、と苦笑いする錫也は本当に、ただのヘタレだと思った。 わる口をいいたいわけではなく、俺はふたりにはとびっきりしあわせになってほしいから、だから毎日のようなこの相談だってきらいではない。 ただ、ふたりともバカだとは思うし、それにやっぱりすこしは腹もたつ。 だから、こいつらははやくしあわせになればいいと思うのだ。心のそこから。本当にそう思う。
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