こういうのもなんだが、俺の彼女はかわいいと思う。 大の甘党で、俺のつくったお菓子をだれよりもおいしそうに食べるすがたはちいさなリスみたいだし、すこしばかり男子が苦手ではにかむように照れるところは、ちいさな花が咲くみたいにかわいらしい。 愛しいと思うきもちは十分すぎるくらいにおおきいのだが、逆にそれが邪魔をして、俺はいつも、すこしだけ臆病者になる。
つきあってもう半年、立派な恋人同士なのに、俺たちはたがいに身をひきあうし、たがいのことをよくしらないままだ。
「みょうじ」
『なあに、東月くん』
かわいらしくふりむいて、返事をひとつ。 俺のかんがえていたことは口にだすことさえためらわれたのだけれど、俺はやっぱりそれを言葉にせずにはいられなかった。 このあいだから本当に、こればっかりしかかんがえられないのである。
「哉太のことが好きか?」
みょうじの顔をみずに、笑ってそうきく。 そしたら彼女はおどろいたのか、どろどろのいちごオレにさしたストローから唇をはなし、げほげほとせきこみながら俺の顔をみあげた。 大丈夫か、と、ちいさな背中をさする。
『い、いきなりなにいいだすの…!』
「だよな。ごめん」
苦笑い。おたがいに。 だまって空をみあげるあいだ、ずずっといちごオレをすいあげる音がしずかに反響していた。 さて。なにを話そうか。すこしだけかんがえる。
「なあ、日曜日用事ある?」
『ううん。なにも』
「じゃあさ、ひさしぶりにどっかいくか」
『あ、うん!いきたい』
今度はピンク色の紙パックをとす、とベンチにおき、彼女はおおきな瞳をきらきらとかがやかせた。俺にむかって。 ひさしぶりに彼女のこんな顔をみられた気がしてうれしくなり、彼女のあたまに手をのばしかける。 そしたら彼女はおどろいたのか、きゅっと目をつむってしまったので、俺はなんだかこわくなってその手をとめた。 ゆき場をなくした手のひらが、宙をさまよって、空になった紙パックにすいこまれる。 空気みたいにかるいそれをちかくのゴミ箱にむかってなげると、きれいな放物線をえがいてがこんとホールインワン。 おそるおそる目をあけた彼女が苦笑いをし、俺に一言。
『帰ろうか、東月くん』
あとすこしで、俺たちはもっとも恋人らしい放課後を生きられたのだろう。そう思ったけれど、やっぱり俺にはできなかった。 彼女の言葉にうなずいて、俺たちはゆっくりと歩きだす。 日曜日には、もうすこしちかい距離でいっしょに歩けるといいと思う。
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