澄みきった青空はからっとかわききっていて、もうすっかり秋の陽気であることを感じさせた。わたしはのびをひとつして、さわやかな朝をむかえる。コンクリートをふみつけるローファーがかつかつと鳴くと、本格的な朝を実感した。
横をあるくこの男、高杉晋助、もといわたしの兄貴がいなければもっとさわやかな朝だっただろうと、すこしだけそれをくやしく思う。
『ホントちかよらないで、いやホントに』
「あぁ?照れてんじゃねぇよなまえ」
『照れてるんじゃなくてふつうにいやなんですぅー』
「一丁前に反抗期かこら」
『いだだだだだごめんなさいいいいい』
絶賛反抗期、らしいわたしの頭を、そいつはグーににぎった手で容赦なくぐりぐりとやるもんだから、なんだかもうこのバカ兄ちゃんがさらにきらいになりそうだった。にしてもこの男、妹相手に本気である。
いたむ頭をさすりながらなんとか魔の手からのがれたところ、わたしはお決まりのタイミングで腐れ縁の人たちに出くわすことになってしまい、これはもう逆に運命かなにかか、とさえ思ったりする。
『銀ちゃんおはよう。今日もすてきな天然パーマですね』
「おー、高杉兄妹じゃねぇか」
よう、と気だるげに右手をあげながら、にやけ面でわたしたちを「高杉兄妹」とよぶものだから、わたしの皮肉なんかはひとつもきいていないみたいだ。じりじりと容赦なくわたしたちを刺す太陽の光が、銀ちゃんのふわふわな銀髪に反射して光った。
この男、坂田銀時と、となりの黒髪は桂小太郎だ。あ、辰馬もちゃんといた。銀ちゃんじゃないほうのもじゃもじゃが、坂本辰馬だ。
なんだかなあ、約束なんかしなくたって、病的な確率で5人そろってしまうのだからやっぱり運命みたいである。
『ホントにやめてその呼びかた。銀ちゃんじゃなかったらなぐってた』
「これなまえ、女子が物騒なことをいうものじゃないぞ」
『はいはいすいませんねー』
「返事は1回にしなさい」
「ヅラは年寄りみたいじゃのー」
『わー年寄り年寄りー』
「年寄りじゃない桂だ」
「うるせーよヅラ」
「こんままじゃあ遅刻じゃなぁ、金時」
「銀時だってなんかいいったらわかんだよ!つーか走れよ!」
『って足はや!銀ちゃん足はや!』
だるそうに駆けぬける銀ちゃんと辰馬の背中をおいかけた。歩幅のひろいふたりに追いつくために走った。走った。チャイムが鳴るまであと5分、今日はすべりこみ登校だなあ、と、自分の気のゆるみ具合を叱咤しつつ、まあたまにはそれもいっか、って。
ふいに家の前においてきた兄ちゃんと小太郎のことを思いだして、それで兄ちゃんだけ遅刻しちゃえばいいやって思った。そのあたり、わたしは妹失格なのだと思う。
見上げた空は相変わらず青かった。
ハニーブルーに融解
「おまえも大変だな、高杉」
「反抗期なんだよあいつ」
「ずいぶんと長い反抗期だな。もう2年くらいつづいているんじゃないか?」
「うるせーよ、空気よめやヅラ」
「(案外傷ついているらしいな、高杉)」