み ず か
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12ヶ月の恋模様


だから世界は今日も泣く [4/9]

 東菜摘とは高校で出会った。
一年のとき、彼女は僕と同じ中学出身だった女友達と仲良くなって、それからその女友達伝いに親しくするようになった。

 菜摘は初めこそ大人しくしていたものの、親しくなるにつれてその裏表のない性格が表に出てきて、「間宮くんって女の子みたいだよね」と僕をからかったり、そのうち「間宮くんはだから駄目なんだよ」なんて説教したりするような関係になった。

 真面目で成績も良く、周りからは大人しい人と見られている菜摘が、僕の前でだけは気取らずに、女友達といるときのように話してくれる。
僕はそれを、自分だけは特別扱いされているのだと思っていた。
けれどそれは、彼女にとっては特別な男友達としての僕に向けられた言葉だったのだ。

 僕はそれに気付かず、彼女を好きになってしまった。
菜摘の屈託のない笑顔や、飾らない言葉やその姿に惹かれて。

 そして振られたのが高一の冬。
菜摘は本当に申し訳なさそうに断って、その次の日からもこれまでと全く変わらずに接してくれた。
本当にいい友達だと思う。

 でもそのおかげで余計に彼女に惹かれてしまった僕は、その一年後、懲りもせずにまた告白して、振られた。
そしてまた前回と同じように、菜摘は僕との関係を崩すことはしなかった。

 それからもずっと変わらなかった菜摘への想いが、ここ数ヶ月の間にだんだんと薄れつつある。
受験のことで頭がいっぱいだったから、と今まで言い聞かせていたが、進学先が決まってもその状態は変わらなかった。

 僕は心底戸惑っていた。
あれだけ好きだった菜摘を、少しずつ忘れつつある自分に。



 二月に入り、僕たち三年生はほぼ午前授業のみになっていた。
まだ試験を控えている生徒は学校で補習や面接指導などを受けることになっていたけれど、既に進学先の決まった僕のような生徒は早々と帰宅するようにしていた。

「周りの志気を下げるようなことはするな」

そう言ったのは学年主任の教師。
要するに「邪魔をするな」ということだ。

 そういう訳で昼過ぎに家に着いた僕は、美佳子さんが準備してくれていた昼食をすませると、すぐに着替えて教習所に向かった。
「家にいても暇を持て余すだけだ」と父さんに言われてしぶしぶ通い始めたけれど、確かに暇つぶしにはちょうどよかった。

 送迎のバスに十五分ほど揺られて到着した教習所は、土曜と同じように大勢の人で混み合っていた。
目の前を行き交う人波は知らない顔ばかりで少し心細い気もしたが、大学に行ったらきっとこんな感じなのだと気持ちを奮い立たせる。
お供のリュックを背負い直して、僕は講義を受ける教室へと向かっていった。

 教室の扉を開けると、想像よりも閑散とした風景が目に飛び込んできた。
学校の一クラス分より少し広いスペースに横長の机が規則正しく並び、その机一つ一つに椅子が三つ横並びになっている。
室内にいるのはせいぜい十人ほどで、皆まばらに座っていた。

 ほっとした僕は一息つき、扉の側の席にリュックを下ろした。
混雑した中での講義だったら、またこの間のように気分が悪くなるかもしれないと心配していたからだ。
安心しきった僕がリュックの中から教習用の教科書を取り出していると、開いていた扉から入ってきた人がなぜか僕の隣で立ち止まった。

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