小説 | ナノ



「メリークリスマスイブイブイブ、…イブ?」

「ふふっ。イブって言い過ぎですよ。」

「ははっ、俺も言い過ぎてよう分からなってしもうたわ。」


外食では無く、家でゆっくり二人での過ごそうと訪れたのは松田さんの部屋。ここに向かう前に買ってきたシャンパンで乾杯して、同じく買って来たチキンと私が作って来たケーキでささやかながらクリスマス気分を味わう。昨夜作ったケーキを松田さんは凄く喜んでくれた。いつもこんな風に私がした事に対して見せてくれる笑顔がとても好きで。頑張って作って良かったと心から思える。そしてきっとそれは松田さんも一緒なんだと思う。松田さんの部屋には、今日の為に準備してくれたのであろう小さなツリーが飾られていて、一足先早いクリスマスパーティーを彩ってくれているから。
松田さんは自分がデコレーションされたツリーなら、私はそれを燈すライトだと言ってくれた。二つが重なってより一層輝きを増していくみたいだと。その言葉が嬉しくて照れくさくて。こうして隣に居るのが松田さんで本当に良かったと心から思う。

温かくて心が休まる様な気持ちに包まれながら食事を終え、ゆったりとした時間を過ごす。何年前のクリスマスにはどんな曲が流行っていたとか。その結果、お互いの青春ソングの違いに松田さんはまたしてもジェネレーションギャップを感じて項垂れたり。以前はこんな風に世代が違う事に対して松田さんはやっぱり大人なんだと思う事しか出来なかったけれど、今は項垂れる姿然り私の前でふと見せてくれる無邪気な表情が、年齢差とか考えても変わらない事をどうでもよく思わせてくれる。
落ち着いていて温かい包容力を持った彼も、感情をそのまま見せてくれる彼も、松田さんの全てが、等身大で居てくれる彼が好きなのだと。
そんな溢れてしまいそうな愛しさを胸にしたまま私は準備していたプレゼントを取り出した。


「松田さん、一足早いですけどクリスマスプレゼントです。」

「ほんまに?って俺もユキちゃんにプレゼントあんねん。」


二人でラッピングされたプレゼントを交換し合ってから、せーのでプレゼントを開ける。プレゼントが何かよりも会えない時間に私の事を考えながら用意してくれていた事が何よりも嬉しい。松田さんが私に用意してくれたもの、それはビジューが綺麗に散りばめられているジュエリーケース。


「わぁ、可愛い!」

「最近ピアスとか色々増えてきた言うてたから、仕舞えるもんがいいかな思うて。」

「私が言った事覚えてくれてたんですか?凄く嬉しいです。綺麗で可愛いですし、本当にありがとうございます。」

「俺も、こないかっこええ手袋ありがとな。」


私からのプレゼントを目の前に掲げる様にして微笑む松田さん。何にしようか散々悩んでる時に街で偶然見つけ、一目で彼に似合いそうだと思い迷うことなく選んだダークブラウンの色味と質の良い手触りのシープスキン制の手袋。落ち着いた色味だけど柔らかくて温かい、松田さんみたいな手袋。


「明後日から北海道ロケって言ってたので、それ使って貰えたら嬉しいです。」

「北海道から帰ってきても大事に使うよ。ホンマにありがと。」


嬉しそうに目を細めてくれる松田さん。気に入って貰えた事に安堵し手の中にある貰ったばかりのジュエリーケースに再び視線を落とした。細部まで本当に綺麗に装飾されていて、何だか使うのが勿体無いと思えてしまう。
可愛らしい見た目を存分に堪能し終え、中はどうなっているのか蓋を開けてみると蓋の裏側に付いていた鏡に映る自分と目が合った。身支度を整える時に鏡で見たりテレビや雑誌で客観的に見る自分の表情と違って、本当に心から幸せそうな表情を浮かべていて。初めて見る自分のそんな表情が何だかくすぐったくて、視線をそのまま箱中に落とした。中はどうやら二段になっているらしく、一段目を持ち上げてみると二段目には綺麗なダイヤが一粒輝くネックレスが入っていた。
予想してなかった更なるプレゼントに驚き松田さんに視線を向けると、照れ臭そうだけど私の大好きな笑顔を浮かべた松田さんと視線がぶつかり、私の中で色々な感情が一気に溶け出していく。


「ホンマのプレゼントはそっち。それ含めてユキちゃんが持ってるアクセサリー仕舞うのに使ってや。」

「ありがとうございます。でも、このネックレスは仕舞ったりしないで肌身離さず付けます。……そうしたら松田さんがいつも傍に居てくれてるみたいでしょ?」

「ははっ、めっちゃ嬉しい事言うてくれるやん。……ほんならちょっと貸してみ?」


私の手の中にあるジュエリーボックスからネックレスを取り出した松田さんの動きに反射する様に膝上にジュエリーボックスを置き髪の毛を抑えた。そして松田さんの手が私の首の後ろに伸びるのと一緒に松田さんの顔も私の真横にあって目の前には、松田さんの喉元。男の人らしい喉仏とか、間近に感じる彼の温度に戸惑いギュッと瞼を閉じた。松田さんがネックレスを付けてくれるほんの短い時間、私の心臓はトクトクと小さくでも早く鼓動を打つ。
「出来たで」と鼻先にぶつかる様な位置から発せられた松田さんの言葉を受け、目線を胸元に移すと、その一粒の宝石はまるで雪の結晶の様に綺麗に輝きを放っている。


「よう似合っとる。……ネックレスを外す時はあっても、ずっと俺の傍に居ってな。」



いつもなら恥ずかしくて言えない様な言葉も言えてしまうのも、雪の結晶の様に輝く宝石だけど溶ける事も無く私の胸をじんわりと温めていくのも、まるでそれは二人きりのクリスマスパーティーだからこそかけられた魔法みたいだ。
キラリと胸元で輝きを放つ結晶に何かを刻み込むように唇を寄せて優しく穏やかな笑顔を浮かべる松田さんがくれる言葉は、魔法の呪文なんかじゃなくて醒める事の無い愛の言葉。


「クリスマス当日は一緒に居れへんけど、良い子にしたってや?慌てん坊のサンタの次は数日遅れのサンタがやってきてくれるで。」

「それじゃあ松田さんも良い子にしててくださいね?そうしたら松田さんの所にもまたサンタがやって来ますから。」


微笑み合ってぎゅーっと抱き締め合いながら噛み締める「今」というこの瞬間の幸せ。
クリスマスが終わってしまっていても、松田さんはいつだって私にとって甘い幸せを届けてくれる年中無休のサンタさんの様な存在。
カレンダー上のイベントを一緒に過ごせなくたって、どんな日でも二人で居れば大切な日に出来る。

街灯がポツリポツリと燈る深夜、冷たい冬の空気。見上げれば済んだ冬の星空ではなく、ゆらゆらと舞い落ちてくるのは雪の結晶。カーテンの向こう側の世界に気付かないまま、私達は二人だけのホワイトクリスマスを過ごした。

そして数日後には遅れてやってきたサンタ同士が再び甘く幸せな時間を共有する。
会えない時間に互いの事を想いながら選んだお土産というプレゼントを持ち寄って……。


1221

カレンダー上は普通の日だけど私達二人の思い出が刻まれた日。

「ずっと、いつまでも一緒やで…。」

間接照明の柔らかな灯りが揺れる室内。額に張り付いた私の前髪をかき分ける松田さんの指先も額に触れる唇も温かい。
その熱に反応する様に胸元でキラリと愛の結晶は輝きを放った。彼への愛しさが刻み込まれた様に。


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