小説 | ナノ



そんな約束を松田さんと交わしたのニヶ月以上前の事。そして今日は12月21日。お互い忙しい日々が続いているが夜には時間が取れるという事で急遽一足早いクリスマスパーティーを行う事にした。
日中から時間が取れればパーティーの準備もゆっくり出来るだろうけど、生憎朝から晩まで仕事が詰まってる。料理は準備出来ないにしても前日にケーキくらいは焼けるだろうか。午前中の予定は事務所で打ち合わせと取材、午後からはずっとテレビ局で移動も少ない。事務所と楽屋の冷蔵庫にケーキを置いておく事も出来る。
20日の深夜に私は仕事での疲労感と眠さ半分、明日の楽しみ半分でケーキ作りに取り掛かった。土台はティラミスのロールケーキにして、クリームやココアでブッシュドノエルの様にデコレーションを施していく。甘くなり過ぎない様に、松田さんがお気に入りのコーヒーに合う様に、気に入ってくれるかなと、考える事は松田さんの事ばかり。作業開始から数時間後に完成したオリジナルのクリスマスケーキを前に、仕事で溜まった疲れも眠気もどこへ吹き飛んでしまったのか私の心の中は楽しみという気持ちだけで満たされていた。そして翌朝、作ったケーキと事前に買っておいた松田さんへのプレゼントを持って仕事へ向かう。

「やけに今日は機嫌がいいな。」と家まで迎えに来てくれた山田さんが開口一番に私を見て言いながら、普段よりも多めの荷物や服装の雰囲気から今度は「なるほどな。」と瞬時に今夜の予定を察した様だ。松田さんとの付き合いを反対されてる訳でも無いのだが、やはりこうやって私の雰囲気から松田さんと予定があると見抜かれてしまうのは何だか気恥ずかしい。


「私って、そんなに分かりやすいですか?」

「何を今更言ってるんだ。」

「……今更って。山田さん、酷くないですか?」

「褒めてるんだぞ。しかし仕事中は集中しろよ。」

「はい。…あっ、山田さんってパネットーネって食べられますか?」

「………パネ…?」

「えっと、パネットーネって言うのはレーズンやドライフルーツが入った菓子パンなんですけど…。」

「……ゴホンっ。……知らなかった訳じゃない。ただ名前と物が頭の中で一致しなかっただけだ。」

「ふふっ。」

「何を笑っているんだ。」

「いいえ。当日は無理だと思いますが、事務所の皆さんにも何か作ろうと思ってたんですけど、甘いものが苦手な方もパンなら食べられるかなとか山田さんの意見も参考にしたくて。」

「あまり気を遣わなくてもいい。オマエが笑顔で居てくれるのが俺達スタッフにとっては一番のプレゼントになる。」

「……ありがとうございます。」

「当日は忙しい想いをさせるが、今夜は楽しんで来い。」

「はい。」


事務所へ向かう途中の車中での会話。だけどたったそれだけの事でもこんな風に幸せな気持ちになれるんだから、松田さんと過ごす時間はもっと幸せに満ち溢れているかもしれない。胸の中に温かさを感じたまま事務所での仕事を終わらせ、テレビ局へ移動してから仕事をこなしていけば、今日最後のトーク番組の収録が始まった。

クリスマス前なのに、年始の特番の収録。今年一年の振り返りながらトークを進めて行く。内容は仕事の事なのだが、トークの合間にこの一年、松田さんと過ごした時間の事を思い出す。春には二人でお花見をしたり、夏には海に行ったり、秋には紅葉も見に行った。どれも人目に付かない場所や時間だったけど、どれも大切な思い出になった。
そんなこんなで収録が無事に終わり楽屋へ戻り、松田さんに仕事を終わったとメールを入れて帰り支度を始めるとすぐに携帯電話は着信を告げる。


「はい、もしもし。」

「お疲れさん。」

「松田さんもお疲れ様です。」

「仕事終わって控室に戻ってきた所なんやけど、すぐに出れるからユキちゃんは局の近くで時間潰しといてくれるか?30分くらいで迎えに行けると思うから。」

「分かりました。それじゃあ共演者の方に挨拶したりして、局内に残ってますね。」

「了解。着いたら電話するわ。」

「はい。気を付けて来てくださいね。」


ラジオの仕事があった松田さんの到着を待つ間に共演者の方々に挨拶周りをして、気が付けばあっという間に30分が経とうとしていた頃、再び松田さんからの着信。それを受け私は急いで彼の元へ向かった。
外に出ると、冷たい夜風が頬にぶつかってくる。吐く息も白い。もしかしたら雪も降るかもしれない。だけどそんな寒さよりも、これから過ごす二人の時間に想いが私の心を温かく包みこんでいく。


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