小説 | ナノ



つながっていた手がほどかれて、私は、えっ、って思う。
呆然とした私の様子をゆっくりと伺うように、表情を確かめるように、しばらく覗きこむ。
「ほんまにええん?」
そうして、少し赤い顔をして、松田さんは言った。
「好きや」
かすれたような、低い声。

えっ…って思ってすべてがフリーズする。
外の音が聞こえなくなって、頬を刺す冷たい風とかも感じなくなって。
そんなふうに立ちつくしていたら、目の前をヒラヒラッと手のひらが移動した。
大好きな手。
なんの気なしに目で追って、はっとした。
口元に笑みをたたえて、松田さんがこちらを見てる。
「…聞いとる?もう1回言ってもええんかな?」

好きやで…
その言葉を聞いたら、視界がにじんできた涙でぼやけて。
どうしたらいいかわからなくなって、目の前の大きな影にギュッとすがりついた。

「もしもーし?お嬢さん、写真撮られるで」
あやすように、背中をトントンと叩く手のひら。
そのリズムに勇気をもらうように、私も口を開く。
「あの、私も松田さんが好きです。
 きっと、知ってたと思うんですけど、
 ずっとずっと好きだったんです」

きっと泣き顔になってるだろうなと思いながら顔を上げると、
優しい瞳に出会った。
「…おおきに」
それはそれは、優しい瞳で。たぶん全部見通してる瞳。
まるで奇跡みたい。
そんなふうに思ったら、涙がこぼれた。

「自分、泣き虫やなぁ…知っとったけど」
ホンマにかわええ、そう言って、ギュッと抱きしめた腕の中があたたかくて。
満たされた気持になる。
「なんだか…夢みたいです」
「そやなぁ…クリスマス前やのに、最高のプレゼントもろたわ」

鼻先に感じる煙草と松田さんの香り。
この香りが私にとってなじみ深いものになるといいな…そう思って顔を上げると、
漆黒の瞳に出会う。
導かれるように目を伏せると、優しいキスが唇に降ってきた。

「なかなか煮え切らんくてごめんな。
 でも、これからは、ずーっと一緒におってや」
甘いささやきに、私の胸は高鳴っていく。
「冬も春も夏も秋も…
 ずーっと大切にするさかい」
うなづくのが精一杯で、また涙があふれ出す。
そんな私を松田さんは優しく抱きしめてくれた。

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