しばらく、指を絡めたまま、イルミネーションを眺めて歩く。
冴えた冬の空気がより一層きらめきを際立たせて。
柔らかい、優しい気持ちになる。
ぬくもりの先には好きな人。
なんだか幸せだな、って思って横顔を盗み見ていると、パチッと目があった。
「ん?どうしたん?」
って聞かれるから、また、「ううんーなんでもないです」って返す。
伝えたいことはたくさんあるんだけど、
きっと見透かされてるって思うんだけど、
まだまだ、ちっちゃいまんまの私の勇気。
嫌われるのが何よりも怖い。臆病者な私。
そしてそんな気持ちをごまかすように、口元にフワリと笑みを浮かべる。
「そうか?…じゃあ、俺の話」
俺な、彼女はおらんけど、ずーっと気になってる子がおるんよ。
松田さんは、光の森をゆっくりと歩きながら、そんなふうに話し出した。
胸がザワザワと音を立てる。
聞きたい、でも聞きたくない。
聞かなかったことにしたいな、って思っても、耳をふさぐわけにもいかなくて、
口元にあいまいな笑みをたたえたまま次の言葉を待つ。
並んで歩いているから、顔が見えなくってよかった、って思う。
自分がどんな表情をしているのかわからない。
「その子は、しんどくってもいつもニコニコしてて。
よぉ頑張りおる子で。
コロコロ変わる表情が見てて飽きないなぁ、かわいいなぁって思っててん」
へぇー、私も知ってる人ですか?
挟み込んだ言葉は、きっと声が震えてる。
きっと私の気持ちを知ってて、そんなふうに言う松田さんはとても残酷だ。
でも、でも、やっぱり嫌いにはなれない。
どうしてだろう?恋って不思議。
そしてそんな私に気づいてか気づかずにか、
そやなぁ、と松田さんは続けた。
「真面目やから、悩みをなんでも自分で抱え込むようやけど、
俺には頼ってくれるとこもあって。
そんなとこ、嬉しいなぁって」
でもな、と声のトーンが少し変わった。
「そんな真面目な子やから、俺の勝手な気持ちで悩ませたくはないって思っててん。
…ほら、こんな将来もわからん芸人やし。
まわりにはもっとええ男がぎょうさんおるのに、俺に好かれても迷惑やろか、って」
“そんなことないんじゃないですか?”
そう返したかったのに、
わざと軽く放った言葉が、余計に本当の気持ちを伝えているようで、
私は、「うん」とうなづくことしかできなかった。
「だから、これまでも、これから先も。
ずっと誰にも言う気はなかったんやけど。
でもなぁ、正直、そろそろ限界みたいや。
気持ちが、ここまで出かかってるん。
どないしよ。
…自分、止めるんなら、今のうちやで」
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