小説 | ナノ



広場のようになった一角は、ほの青い輝きと白く澄んだ光に彩られていて。
街路樹がまるで光の小径のよう。
ほかのイルミネーション会場に比べると規模が小さいのと、
今日は特別寒いのもあってか、人影はごくまばらだった。

「きれい…」
そんなふうにしか言うことができなくて、思わず目を見張る。
「お仕事で、点灯式には出させてもらったけれど、歌を歌ったりしていて、
 こんなふうにイルミネーションを眺める時間なんてなくて」
幸せそうな人たちの笑顔は、ステージの上からたくさん見たんですけど…
そう言うと、
「そやなぁ、俺もこんなふうにイルミネーション見るん、えらい久しぶりや…」
松田さんはとても穏やかな、優しい顔をしてる。
「ほら、あっち側、LEDが敷き詰められて、川みたくなってんで。
 街路樹っていうより、まるで雪の森に迷い込んだみたいやな…」
「ほんと!!光に手が届きそう…」
冷えた左手を空にかざし、少し背伸びをしてみる。
「ふふ、やっぱりムリですね」
そう言うと、松田さんは甘い笑みを浮かべ、
「ユキちゃんのためやったら、おいしいケーキやら、おっきなダイヤやら、
 抱えきれんほどの花束やら、なんでも望みを叶えてあげたいところやけどな…」
こればっかりは、と苦笑交じりに話す。
今まで見たこともない表情をしてる。
サラサラ流れる黒い髪や、長い睫毛に、
柔らかい光が当たってキレイ…なんてぼんやりと思う。
「またー、子供扱いして!!」
ちょっと口を尖らせると、ポンポンと握った指先が私の手の甲にリズムを刻む。
「大好きなものばっかりやろ?」
「もー!!…でも、女の子に優しいんですね」
慎之介さんみたい、と言うと、
「残念ながら、慎ほど優しゅうないなぁ…
 ユキちゃん、だからやろ」
「またまたー、松田さん優しいから、きっと彼女さんは幸せだろうね、って、
 音声のさくらちゃんとさっき話してたんですよ」
さっきの打ち上げの席での話題。
ありふれたガールズトークだけど、私とさくらちゃんは、
あーでもないこうでもない、と盛り上がった挙句、
もし付き合うのならばレギュラーの中なら断然松田さんだよね、って結論で落ち着いた。
「そりゃどうも。でもそんな持ち上げたかて、なんも出えへんで。
 …っていうか俺、ここんとこ彼女おらんし」
えっ、ってビックリして声が出た。
「そりゃそうやろ。彼女おったら、他の女の子と手ぇつないで歩いたりせぇへんわ」
うわ、しょうもな…俺、どないなイメージやねん、
困ったように言うから、
「うーんと、宇治抹茶の誠実な方?」
そう返すと、「そことの比較かい」
と松田さんは苦笑した。

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