小説 | ナノ



クリスマスを控えた街は、いつもより華やかで。
いつもよりキラキラと眩しくて、いつもより騒がしい。
“ちぃとばかし歩くけどいい?”
との言葉に、2人で他愛もない話をしながら歩く。
「よぅこんな時期にユキちゃん、時間とれたなぁ」
「だってやっぱり、Wジャックさんの初ライブっていったら特別ですから。
 山田さんに、ずーっとずーっと前から頼んで、時間空けてもらいました!
 …でも、前の仕事が押して、ちょっと遅れちゃったんですけど」
「エライ、エライ」
ポンポン、と右上から大きな手が頭上に降ってくる。
思わずニヘラ、と頬が緩む。
「俺らもなぁ、やっぱりオープニングには間に合わんかったわ。
 この時期は忙しゅうてかなわんわ」
番組ではぎょうさんクリスマスしてても、こないして街中歩くなんて、
なかなかできんくてなぁ…
そんな言葉に、そうですよねぇ、なんてうなづきながら、
まるで夢みたいって思う。
ロケの合間のちょっとした移動とか、スタジオから駅までの帰り道とかじゃなくって。
飲み会のついでではあるけれど、こうして一緒に歩いているなんて。
そんなふうに思うと、ムクムクと、ちょっとだけ欲張りになる。
うーん、さっき松田さん、デートって言ってくれたし。
…酔ってるとはいえ。
ほら、街中もキラキラしてるし、もうすぐクリスマスだし。
ちょっとだけ、今だけ、甘えてもいいかな…。

思わず、背の高い影に右手を伸ばしかけて、でも、やっぱり、ってためらって。
それでも…と逡巡して、えいってカーキのコートを小さくつかむ。
私の手が、ちっちゃくちっちゃくだけど、松田さんとつながってる…
そう思ったら、ちょっと嬉しくなった。
私、きっと浮かれた顔をしてるな…なんて思っていたら、
「ん?どうしたん?」
急に聞いてくるから、頬がボッと熱を持つ。
「ううんーなんでもないです」
心配そうに、立ち止まってこちらを覗きこむ。
「顔、赤いで。なんともないことないやろ。
 酔いまわってきたん?それとも寒い?」
風邪でもひいたら大変やし、今日はもう帰るか…と言いかけるので、慌てて、
「そんなんじゃないんです。ただ…」
「ただ?」
「あの、ね、…手つなぎたいなぁ、って思って」
でもね、勇気が出なくって、なんて言葉を飲み込んだら、
「なんや、自分、酔っぱらうと甘えたさんか」
目元をふっと緩めると、私の右手を握ってくれた。大きい左手。
ドキン、と心臓が音を立てた。

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