小説 | ナノ



「あっ、ところで、福原さんはどちらですか?
 私、まだお祝い言えてなくって」
「あぁ、福原なら…あっちやけど。
 いいって、福原なんて。
 ユキちゃんからのお花、エライ喜んでたし。
 そんなんよりも、オレと話しようや。
 …ちぇー、ユキちゃんとデートせな思うて頑張ったんに、相変わらずつれないわ〜」
あははは…なんて私は言葉を濁す。
ちょうど都合よく、音声のさくらちゃんがビールを持ってきてくれたので、
さくらちゃんを捕まえて、3人でくだらない話で盛り上がった。

汗をかいたグラスからしたたった水滴が、その足元で大きな湖を作る。
あぁ楽しい、なんて思いながら笑っていると、そのうち徳田さんが、
それから慎之介さんが賑やかしにやってきて、輪が大きくなった。
いつものメンバー、そう思うと、私にはちょっぴり物足りなくて。
そうして、首を上げて、室内に目を配る。

どこに行っちゃったんだろ?
もう帰っちゃったのかな?
私の好きな人。
どこが好きなのかって聞かれたって、
そんなのもうなんて言っていいのかわからなくって。
困ったように目を細める癖とか、
穏やかな話しぶりとか眼差しとか。
いつも周りに気を配っているところとか。

でも、そんなの好きのうちのほんの一部な気がして。
もっとかっこいい人もいるし、優しくしてくれる人だっている。
おもしろい人だって、たくさん…はいないけどきっといるし、
話が合う人だって。
でも、でも、そういうんじゃなくて。
理屈じゃないって本当なんだなぁ、とあらためて思う。
私の歌う、ラブソングの歌詞みたいに。

でも、でも、そんなこととっても言えなくって。
好きじゃないって言われたら、どうしようって思うから。
「嫌われてはいない…と思いたいんだけど、なぁ…」
そんな自嘲めいた呟きをもらしながら、それでも、ちょっとでもお話したいな…と姿をさがす。

夜も深まり、ますます盛り上がる室内にはその姿は見当たらず、
もしかして煙草かも…とこっそりと階下へ足を向ける。
喫煙スペースには人の気配がなかった。
「ちぇー、こんなんなら、早く話しかければよかったな…」
落ち込んだ気持ちを少しでも浮上させなくちゃ、と外の風に当たることにした。

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