拾遺 | ナノ



辺りに漂う硝煙の匂いと、油の匂い。

そして、鉄錆の匂いに肉の焼ける匂い。

夥しい人の残骸の中に静かに佇む






一つ眼の鬼。






至極穏やかな笑みを浮かべながら、端然と立つ目の前の男に

「アンタの事だぜ、毛利元就。」

と、嬉しそうに囁いた。

「…下らぬ。人の身で完璧など有り得ぬわ。」

名を呼ばれた男は、その端正な顔を嫌悪に歪めて、鬼の言葉を否定する。

「俺がそう思っているだけだ、気にすんな。」

「…。」

的外れな言葉を返す相手に、知らず奥歯が鳴る。それに気付き、心を落ち着かせようと、天を仰ぎ、地を見渡す。

『無駄な事をさせおって…。』

その瞳に映るのは、破壊された重騎とただの肉と果てた両軍の兵達。

「それでこの所業か…。」

まだ、天下取りの足掛かりだと言われた方が納得がいったのに。呆れる程下らない理由で攻められたのだ。

「俺の二つ名、知ってるだろ?」

射殺しそうな視線を受けながらも、鬼は変わらず嬉しそうに言葉を紡ぐ。

「成る程、血を好むか…。」


再び激昂しそうな自分を抑えて、

「悪鬼めが…。」

言葉に嫌悪と軽蔑を乗せる。

「鬼ならば、討たれて滅ぶのが道理よ。」

「…人なら、鬼に屠り喰われるのが常だ。」

変わらず笑み続ける鬼に、さすがに不愉快になる。

「その減らず口、永久に閉じてやろうぞ!」

「面白れぇ!殺れるものならやってみな!」

鬼の笑みが更に深くなった。

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