壱
天下分け目の合戦から、数日後。毛利元就は四国の地に降り立っていた。
今回の合戦での一番の功労者に会う為に、である。
とある屋敷へと通され、その一室で暫く待っていると、一人の男が入って来た。
「アニ…、元親様は今、臥せっているんで…」
面通しを願い出た元就に対して、長曾我部元親の部下は煩わしげにそう言った。
自軍の兵であれば厳しく罰している所だ。と、元就は思いながらも、確かに書状も出さずに、いきなり訪ねた此方に非があるかと、見せていた笑顔は崩さずにその言葉を受け流した。
「石田殿から頼まれたのでな、会わずに帰る訳にはいかぬのだ」
そして、崩さぬまま今日この地に訪れた理由を告げる。
三成が、再三元親に対して招集命令を出しているのにも拘わらず、今日の様に“臥せっている”との一点張りで、一向に応じようとはしない。
痺れを切らした三成が、元就に本当に臥せっているのか確かめて来いと、頼んで来たのである。
それを聞いて元親の部下は、先の戦で徳川家康を降し、実質的に今や天下人となった石田三成からの直々の命令とあっては無下にも出来ないと判断したのか、“少々お待ち下さい”と言い、奥へと消える。
「お会いになるそうです」
一刻の時間も経たぬ内に戻って来た元親の部下が、固い表情を見せて元就にそう告げた。
トップへ