拾遺 | ナノ



“気持ちが悪い。”

それは、元親を見た瞬間からずっと変わらない症状。

「ここじゃ落ち着けねえなぁ…。」

己の起こした事によって、俄に騒がしくなった陣中で元親が言う。

「話をしに来ただけなんだがよぅ…。」

“しょうがねえ。”

そう言ったかと思うと、元親は元就を抱え上げて、どういう仕掛けになっているのか、乗り物となった碇槍を使いそのまま来た方向へと消えていった。

触れられた途端、元就の気分の悪さが頂点へと達する。

抵抗どころか声を発する事も出来ず、只、意識を繋げる事だけで精一杯であった。

「そんなに怯えなくても大丈夫だぜ…。」

その様子を見た元親が、優しく声を掛けてくる。

そして、元親は呼んだ…。

「松寿。」

元就の幼い頃の名を。

訛りでか、その称呼は独特な物に聞こえる。

刹那、元就の脳裏に過去の出来事が鮮やかに蘇った。

一人の少年の姿が浮かび上がる。

日に照らされると虹色に輝く美しい銀糸に海の色の瞳。透ける様な白い肌、そして、赤い…。

共に過ごした時間は短かったが、とても昵懇な間柄になった少年。

最後の別れの時、父が倒れたので挨拶も出来なかった。

『あの時、倒れたのは父上で…。』

“本当に?”

頭が痛い。

今から思い出そうとしている事を、必死になって拒絶しているみたいだ。

『違う…倒れたのは…、そう…。』










自分。


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