八
放課後。
空が曇り始め、今にも雨が降り出しそうな気配がする。
元親は、少し苛立ちながら校舎内を歩いていた。
元就が居ない。
今日元親は、職員室に呼び出されてしまい、帰る時間が遅れた。そんな時、何時も元就は教室で待っているのに、元親が戻ると何処かへと消えていた。
『クソッ、何処行った!』
靴は下足箱にあった。と、いう事はまだ校内に居る筈だ。
そう思い、普段から人気の少ない新校舎の空き教室前を通り掛かった時。
「…?何だ?」
小さな悲鳴を聞いた気がして、勢いよく引き戸を開け放つ。
すると、其処には。
「…何、してんだ。」
倒れている数人の女生徒と、その中の一人の後ろ髪を掴み、頬にカッターナイフを突き付けている元就の姿があった。
「ごめんなさい、ごめんなさい…。」
恐怖心からか、その女生徒は、元就に震えながら必死に謝っている。
「コレをこういう目的で使うつもりだったのであろう?」
そう言うと元就は、頬に当てていたカッターナイフを高々と振り上げた。
「…!馬鹿!やめろ!!」
暫く呆気に取られていた元親が慌てて止めに入り、その場は事なきを得た。
そして、そのまま逃げる様に元就の手を引いて帰路に着く。
「…お前、何やってたんだ?」
その道中、元親が先程の出来事を聞く。
「いきなり呼び出されてな、無理矢理あそこに連れて行かれた。」
元就は予想通りの答えを返して、その後、“言い掛かりをつけてきたから、少し灸を据えてやっただけだ。”と、続けた。
「…やり過ぎだろ?」
その時、元親達の前を猫が横切った。
「!」
嫌な思い出が甦る。
「…もうしない。今回の件で、弱い者を嬲ってもつまらぬ事が分かった。」
元親の心情を察したのか、元就が淡々とした口調で呟いた。
『弱い者を嬲ってもつまらない?』
ふと、元親は元就の言葉に引っ掛かりを覚える。
『嬲っても?』
「なあ、元就。」
「何だ?」
「今日、家に居るのお前だけだよな?」
突然の元親の言葉に、怪訝な表情を見せながらも、元就はこくりと頷いた。
「そうか。」
返事もそこそこに、元親は更に早足で歩き出す。
元就の家へと向かって…。
トップへ