七
入学した当初、元就に対する周りの反応は凄いものであった。
有名進学校に首席で入ったと云う事もあるが、何と言っても、注目された最大の点は、その見た目である。
その頃には、あの無表情に少しだけ感情が付く様になっていた。
寂寂しいという、決して明るい物ではなかったが。
あの猫の件から先、時折その様な表情を見せる様になっていた。
それが他人には、“儚げ”に映るらしい。
『アレがそう見えるか…。』
はっきり言って、元親としてはどうでも良い事である。
「良いよな〜、あんな幼馴染みが居て。」
元親と近くの席になった伊達政宗が、羨ましそうに話し掛けてきた。
「あ?そうか?」
「わあ、気の無い返事。」
元親の疑問をふんだんに含んだ返事に、おどけながら、前田慶次が会話に入って来る。
「折角美人が入学して来たと思ったら、こんな厳ついおまけ付きだしな。」
ハハッ、と、独自のニュアンスで政宗が笑う。
確かに、謂れのない嫉視を痛い程感じるが。
「どうせその内飽きるさ…。」
その元親の言葉通り、数日と経たず元就の周りは、直ぐに落ち着いた。
元就の事で、日を追う毎に分かった事は、彼女はとてつもなく付き合い辛い人間だと云う事実であったからだ。
話し掛けても返事はしないし、表情も乏しい。後、言葉遣いも妙である。
授業中は、ぼーっとしているか、寝ているかのどちらかだったし、机の上に一応教科書を出してはいるが、ノートを執っている所を見た事がない。
何度か教師が、眠っている元就に“今やっていた問題を解け”とか、“続きから読みなさい”等、絶対に分からないであろうと思われる事を言われても、元就はそれらを事も無げにやってのけたのだ。
それで、成績は常にトップという、教師からしても非常に扱い辛い生徒であった。
ただ、その様な人間は悪目立ちするものだ。
そろそろ梅雨になろうかという時期に、ある事件が起こった。
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