五
そして、辿り着いた先は町外れの廃墟ビル。
その中に、元就は入って行った。
『何しに行く気だアイツ…。』
其処は五階建てのビルで、屋上に落下防止用の柵も無い。
嫌な予感がする。
元親は慌てて中に入り、エレベーターを見付けたが、勿論動く筈もなく、急いで階段を駆け上がった。
屋上の扉を蹴破って、最初に目に飛び込んで来たのは…。
「オイ!何やってんだ!やめろ!!」
有ろう事か、懐に抱いていたと思われる猫を頭上に高々と抱え上げ、投げ落とそうとしている元就の姿だった。
元親は大急ぎで駆け寄り、寸前で猫を奪い取る。
「…っ!」
少々乱暴過ぎたのか、猫は威嚇の声を上げ、元親の手を引っ掻きそのまま逃げて行った。
手の甲がヒリヒリと痛むが、今はそれどころではない。
「何、しようとしてた…。」
立ち尽くしている元就に、元親は成る丈冷静に問う。
「少し仕置きを…。」
と、元就は、何時もの無表情で答えた。
元親の背を嫌な汗が伝う。
「…命だぞ。」
「……。」
あの猫が何をしたかのかは知らないが、“仕置き”というには、元就の行動は余りにも行き過ぎている。
「軽々しく奪って良いモンじゃ無えだろうが!」
今、元親が思い出している事は、あの、幼い頃の元就の行動。
大分前からやらなくなり、安心していたが、何の事はない、対象が変わっただけだった。
「オイ、まさか他にも…。」
「今日が初めてだ。」
そう元就は断言する。
「…そうか。」
それを聞き、元親は安堵の溜め息を吐いた。
付き合いが長い分、嘘を吐いている時に、どういう癖が出るのか分かるからだ。
「我は、この時代に合わぬ様だな…。」
突然何を言い出すのかと、元親は理解出来なかったが、その瞬間元就が見せた表情に酷い寒気を感じ、慌てて元就の手首を掴んだ。
「変な事考えるな。」
それは、初めて見る元就の笑顔。
何とも言えぬ、寂しいものだった。
トップへ