十一
ずっと疑心を抱いていた…。
前世で恋人同士だと言われていたが、何故かその当時の事を話そうとはしない男に…。
『成る程、話せぬ訳だ…。何が恋人同士だ。そう思っていたのは、貴様だけぞ…。』
窓を見上げると、瞳に月が映る…。嫌でもあの日を思い出す。
あの時、やけに月明かりが眩しかった夜…理不尽に命を奪われた夜…。
胸に自分を殺めた男の重さを感じながら、遠退いていく意識の中で、
『何も、憶えていなければ運命は変わるのだろうか…?』
そう思った。
三度もこの男に殺された。
『同じ轍を踏まなければ…この輪廻の輪から外されるのだろうか…?』
自分の死に処を、命運をこの男に握られている。
『ならば…もし、又生を与えられるなら…全て忘れる様…。』
そう願い、そのまま闇に落ちた。
『結局出会ってしまったが…。』
ふと、ベッドに横たわっている男を見やる。穏やかな顔をして眠っている…。
先程迄していた行為を思い出す。
『…しかし、まさか今生のこの身体がこんなにも快楽に弱いとは思わなんだな…。』
あの廃寺で半ば強姦に近い形で初めて抱かれた時、恐怖よりも快楽が勝っていた。
だから…“そんなに感じるのは前世の記憶が無意識に出ているからだ”と言われて鵜呑みにした。
「愚かな…。」
あのまま記憶が甦らなければ、騙されたままでいれば…。
『…残念だったな、長曾我部…。もう少しで、もっと深い縁が結べたかもしれなかったのに…。』
きっと、愛していただろう。
『反吐が出る。』
だが、記憶は甦り、まだ許せていない自分がいた。
『記憶があろうが無かろうが、此奴とは出逢う運命か…。』
ならば、次に試すのは…。
『結末が変われば運命も変わるであろう…。』
何時もの結末は、自分が長曾我部に殺されるという事。
『今生では、其れを逆にすれば良い…。』
男が飛び起きる音がした。自分が隣に居なくて慌てたのだろう。此方に気付き安心した顔をした。
「…どうした?眠れねーのか?」
『さて、どの様な方法を用いろうか…。』
「いや…。空が近いな、此処は…。」
『何時の時代でも、女は男より弱いとされている…。』
「…ああ、まあな…ここら辺で一番高い建物だからな…。」
『脅されて、無理矢理関係を持たされたと言えば皆、信じるか。』
「そうか。」
『この輪廻の輪から逃れられるのなら、咎人になる事など些末な事…。』
「良い月夜だな。元親。」
『結果が分かるのは随分先だが…。何、また巡り逢ったら…
別の結末を試せば良い。』
月に照らされた元就の微笑みは、とても美しかった。
終
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