裏黒 | ナノ



あの無様な死の後、初めて生を受けた時は無念と憎悪のあまり物心が付いた時から記憶を引き摺っていた。

“来世ってのがあったら、又、巡り逢いてぇな…。”

忌々しいあの言葉も…。

真っ平だった。

あの男が求めるのが“毛利元就”なら、女として存在している今生の自分には気付かないかも知れない…。

そう淡い期待を抱いていたが、

「元就…。」

見付けられた…。

「アンタがどんな姿になっても、俺は必ずアンタを見付ける。」

何故この男は我に執着する?

気色が悪い。

理解出来ぬ事は全て気色が悪い。

そもそも我は此奴を愛してなどおらぬ!それこそ情死する程も!

あの時、同盟を結んだ時この男が出した条件を呑んだのは只此方に利があると判断をしたからだ!男同士でのあの様な行為に何の意味がある!

何時も一方的に己の感情だけをぶつけてきおって!

「元就。」

何を笑っている。

「…めでたい奴よな。何故、我が女に転生したか判るか?貴様から逃れる為よ…!」

「…何…で…。」

はっ!一端に傷付いた表情を浮かべよる。



「…何で?…何でだと!?」

今まで溜め込んできた激情が堰を切り、一気に溢れ出した。

「貴様が、我から全てを奪ったのであろう!!」

意味のある死を迎えられた筈だったのに…!全て無意義にされた!

「俺は…、何も…」

「…ふっ。確かに、あの時の貴様は無自覚であったな…。質の悪い…!」

「元就…。」

名を呼ばれる事も腹立たしい。

「…丁度良い。この際だ。あの時代、我が貴様の事をどう思っていたか教えてやろう…。」

この時、激昂しすぎて長曾我部の事など目に入っていなかった…。

「我は貴様自身が欲しい等と思…「聞きたくない!!」

全て言い切らない内に長曾我部に首を絞められた。

「…!きさ…!!」

絞めてくる手をもぎ取ろうとするが、

「!!」

力の差がありすぎてそれは叶わなかった…。




結局、又あの男に殺された。






二度目に再会した時は、月明かりに照らされた銀糸を認めた瞬間に記憶が甦った。

何故見付ける?

何故、巡り逢う!

我は、此奴の輪廻の輪に組み込まれておるのか?



「…又、殺しに来たか、長曾我部。」

「…元就…。」

「気安く名を呼ぶでないわ…」

だとしたら何と腹立たしい。

「此処は清浄なる地。貴様の様な不浄の者が踏み入れられる場所ではない。」

「…不浄って?何を指して不浄だと言ってんだ?前世でアンタを殺した事か?それともあの時代に大勢の他人を殺めた事か?だったらアンタだって、不浄の塊じゃねーか…。」

全く腹立たしい…!

「…下衆が…!疾くと去れ!」

長曾我部の懐で何かが光った。

「貴様…!」

月明かりを照り返すそれは…。

「…!去れと言っている!」

まさか、又…!?

「アンタ、今、女なんだぜ?」

!!

銀の切っ先が胸を貫く…。

「…!がっ…!」

「月、綺麗だな…、元就…。」

……ぜ…?

「長…曾我…」

何故…又…?殺される理由が解らぬ…。

「大丈夫だ。俺も一緒に往くから…。」

「…!!」

「元就…愛してる…。」

………。

「次は、上手くやろうな…。」

…次?

「真っ白な状態で…。」

それは、とても小さな呟きだった。



まさか、憶えていたから殺されたのか?

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