八
夕暮れ刻、モトチカに手を引かれながら、自分の家の方向とは真逆の道を行く。ここ最近、これが週末の恒例となっている。
このまま週明け迄彼のマンションで過ごすのだ。
親には、“テスト期間が近いから友人の家で泊まり掛けで勉強会をやっている。”という事にしている。一応、納得はしてくれている様だが…。
『そろそろ別の理由を考えねばな…。』
そう考えて、ずっと通うつもりな自分に軽く呆れた。
モトチカのマンションに着き、部屋に通される。今日も誰も迎え出ない。家族で住んでいる筈なのに相変わらず寂しい場所だ。
“ウチの親、昔から放任主義だから”だと言っていたが、幼い頃からだというのなら、只の育児放棄ではないのか?と思う。
“お陰で家事が得意になった”とも言っていた。他は知らないが、確かに料理は上手い。今出されている有り合わせの料理も中々のものだ。前に“其方の嫁になる者は楽そうだ”と何となく言った一言に“お前はなってくん無ぇの?”と殊更真剣な顔で返された。
そこで、はたと思った。前世で恋人同士だと言われたが、自分はこの男の事が好きなのか?と。
正直分からなかった。
「モトナリ…。」
そんな事を思い出していたら、いつの間にか後片付けを終えたモトチカに手を取られ、彼の部屋に連れて行かれた。
入るなり、ベッドに優しく押し倒される…。馴染んだ感触がモトナリの背を包んだ。そして形を確かめるかの様に、顔中に口付けを受ける。
この様な行為に嫌悪感を抱かないのだから、嫌いでは無いのだろう。
胸を弄られて、突起を軽く爪で弾かれ舌が這う。
「…ん…」
手が、舌が徐々に下がって行く…。
「ああ…っ!」
一番敏感な部分を、布越しに舌に突かれて堪らず声が出た。暫く舐められ、程好く濡れてきたのかモトチカのモノが胎内に入ってきた…。
「んぁ!あんっ…!ああっ!」
静かな部屋に己の声だけけが響く。この状況だけは、何時までも慣れない。
咄嗟に自分の人差し指を噛み、声を抑える。すると、
「声…我慢しなくていいから…。」
そう言って噛んでいた手を取られた。
「でも…あっ…!」
そして腰を進められる。
「あっ…!あぁ!ンン…!」
「俺等以外誰も居ないからさ…。」
そう言われても、やはり恥ずかしさは変わらない。
「モトナリ…。」
自分を抱いている男を見る。…何故何時も不安気な表情をするのだろう?
思わず両手でその頬を包み、口付けた。
「!」
途端、更に深く口付けを返された。
「ん…ふぅ…。」
舌を絡め合い、貪り合う。
腰の律動が早くなり、更に奥を突き上げられる。
「んあっ!あっ!あっ…くぅ…んっ!…カ…モト…カ…」
ズチュッ!ジュプ!
自分の嬌声と水音が部屋中に響く。
「モトナリ…モトナリ!」
「!あんっ…チカ…!やっ…!いっ…しょに…モ…チカもいっ…あぁ!」
「ああ、一緒に達こうな…」
そして、膝裏を抱え込まれて更に強く深く突かれた。
「っ…!やぁ!あああぁっ!」
与えられる快感に、締め付けが強くなる。
「!くっ…!」
絶頂を迎え、そしてそのまま二人同時に果てた。
「………。」
目を開けると、男の腕が映った。どうやら、あのまま眠ってしまったらしい。
「…コホッ」
散々鳴かされたせいか喉が掠れている。
『水…。』
回されている腕を解き、ベッドから下りる。
何も身に付けていなかったので、そこら辺に散らばっている服を適当に羽織る。モトチカのYシャツだった様で、ブカブカだ。
水を飲み戻ってみると、カーテンの隙間から明かりが漏れているのが目に入った。
『…随分と明るいな…。』
何気なく、少しだけカーテンを開けてみる。
見事な満月。カーテンを更に開けると、体全身に月明かりが降り注いだ。
その途端、何時かの記憶が頭の中を走馬灯の様に駆け巡る。
月。
銀糸の男。
光る短刀。
赤。
赤に染まる自分。
男は、
長曾我部元親。
月明かりを浴びながら元就は、
「…失敗したか…。」
と、無感情に呟いた。
トップへ