裏黒 | ナノ

七(モトチカ視点)

ギッギッ…

薄暗い部屋の中、ベッドを揺らす二つの影…。

「…ん…」

己に組み敷かれている女を見ると、恥ずかしそうに顔を背け自分の人差し指を噛んで声を抑えている。

「声…我慢しなくていいから…。」

優しく噛んでいた方の手を、己の手で絡め取る。

「でも…あっ…!」

その隙をついて、再び腰を進める。

「あっ…!あぁ!ンン…!」

今生で再会した後、何度か会い、こうして元親のマンションで逢瀬を重ねている。

今の親が放任主義で、殆ど此処には戻らない。なので独り暮らしの様なモノだ。

「俺等以外誰も居ないからさ…。」

とにかく声が聞きたかった。自分が与える刺激に全て応えて欲しかった。

かつて信仰していた日輪の残照の様に、その瞳に、心に、自分を焼き付けて欲しかった。

「モトナリ…。」

名を呼ぶとモトナリは元親の頬を両手で包み、軽く口付けてくる…。昔、あの時代の元就なら考えられない行為だ…。

「ん…ふぅ…。」

口付けを深くしながら、腰の律動を早める。

ズッ!グヂュ!

「んあっ!あっ!あっ…くぅ…んっ!…カ…モト…カ…」

急速になった動きに堪らなくなったのか、モトナリは元親の名を呼びながら縋り付いてくる。

『温っけぇ…。』

過去、腕に抱いた彼女達は直ぐに冷たくなったし、名を呼んではくれなかった。只、他人行儀に“長曾我部”としか…。

元就は、こんな風に抱き付いては来なかった。

「モトナリ…モトナリ!」

「!あんっ…チカ…!やっ…!いっ…しょに…モ…チカもいっ…あぁ!」

「ああ、一緒に達こうな…」

モトナリの膝裏を抱え込み、更に強く深く抜き挿しする。

「っ…!やぁ!あああぁっ!」

「!くっ…!」

強い締め付けに元親は意識を持って行かれ、そしてそのまま二人同時に果てた。








「…ん?」

元親が静寂の中、目を覚ます。

「!?」

隣に居る筈の温もりが無く、慌てて起き上がった。

すると、直ぐ目の前にその温もりの主を見付け、ホッと胸を撫で下ろす。

「…どうした?眠れねーのか?」

カーテンを開け、ベランダの前の窓ガラス越しに夜空を見上げている。

「いや…。空が近いな、此処は…。」

「…ああ、まあな…ここら辺で一番高い建物だからな…。」

「そうか。」

モトナリが月明かりに照らされている…。その横顔には、薄い笑みが浮かんでいた。今宵の月はどの様な姿をして居るのだろうか?

「良い月夜だな。元親。」

そう言って振り向いたモトナリは、とても美しい笑顔をしていた。






頼むから、このまま何も思い出さないでくれ…。












それは、とても懐かしい…。

昔、元就がよく元親に見せていた笑顔だった…。

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