六(モトチカ視点)
あの時命を摘んだ事も、あの時代に伴に逝った事も、そして俺の事も…。全部忘れてくれれば良いと、そう期待していた…。
だが、
「…又、殺しに来たか、長曾我部。」
その声音と、浮かべた表情で、俺の望みはあっさりと打ち砕かれた。
「…元就…。」
あぁ、
「気安く名を呼ぶでないわ…」
憶えてたんだな…。
「此処は清浄なる地。貴様の様な不浄の者が踏み入れられる場所ではない。」
折角又逢えたのに…
「…不浄って?何を指して不浄だと言ってんだ?前世でアンタを殺した事か?それともあの時代に大勢の他人を殺めた事か?だったらアンタだって、不浄の塊じゃねーか…。」
「…下衆が…!疾くと去れ!」
勿体ねぇーなぁ…
ジャリ…。
境内に敷かれた砂利が鳴る。
「…!去れと言っている!」
憤る元就を余所に、俺は近付いて行く。
「貴様…!」
何故、こんなに無防備なのだろう?
まだ、男だった時の記憶が強いのだろうか?
男である俺に、腕力で勝てるつもりなのか?
でもな、元就…
「アンタ、今、女なんだぜ?」
そう言って、俺は懐から短刀を取り出した。
「!」
使いたく無かったんだけどなぁ…。
「…!がっ…!」
白い元就の装束が、みるみる紅く染まってゆく。
「月、綺麗だな…、元就…。」
「長…曾我…」
「大丈夫だ。俺も一緒に往くから…。」
「…!!」
あの時と同じ台詞を言ってみる。
「元就…愛してる…。」
お前がどんなに俺を嫌っても、俺はお前を離さない。
冷たい元就の身体を、優しく抱き締めながら、俺は自分の胸に短刀の切っ先を当てる。
「次は、上手くやろうな…。」
本当に、月が美しい夜だった。
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